――とりあえず、なんとかしよう。


 

 

河合はそう決心し、部室のドアを押し開けた。


 

ジャンケンは言いだしっぺが負ける。ケンカは仲裁役が勝つ、って展開で、ひとつ。

 

 

 

 

 

 

河合が久しぶりに部室に向かうと、ドアの前に不思議な光景が広がっていた。

 

――迅?…と、島崎?

 

部員と元部員が灰色のドアの前にへばりついて薄い隙間から中を覗いている。

今日何か特別なことでもあっただろうか。自分の用事は久しぶりに後輩の顔でも見にいってみよう

か、という気まぐれから発生したものなので、そういえば部員たちの用事などは聞いていなかった

が、先ほど遠巻きに練習を見ていても特に何かある風には見えなかった。

またなぜ自分と同じくすでに引退した島崎がここにいるのだろう。同じ理由、というのも考えられ

なくはないが…偶然だろうか。

河合は近づいて迅と島崎の肩を叩いた。

 

 

「なにやってんだ、おまえら」

「しっ!」

 

 

島崎が自分の口の前に指を立てて言い、河合はう、と声を詰まらせる。

 

 

「お、驚かせないで下さいよ、和さん…」

 

 

迅は震える小さな声で言って、また中を覗き込んだ。

島崎も迅も相当必死だが、二人の横顔には少し異なる点が見られた。心配そうに顔を青くさせてい

る迅に対し、島崎はどこか楽しそうである。口の端がしっかり上がっている。

この二人がこういう顔のときはたいていよくないことが起こる。これはもはや予感などではなく、

統計上の事実の域だ。

 

 

「…で、何が起きてるんだ?」

 

 

二人の体で中はさっぱり見えない。面倒事に巻き込まれるのはごめんだが、元部長としてそのまま

にしておくわけにもいかない。かなりそのままにしておきたい気もするけれど。

二人に倣って小さな声で問うと、島崎が迅に「しっしっ」と手で合図をした。年功序列がしっかり

働いている。河合は上下関係には最低限のこだわりしかないのだが、島崎という男はそういう人柄

なのか後輩に対して常に先輩ぶる姿勢が見られた。別に後輩たちもそれを嫌がらないので(準太と

利央は多少反抗していたものの)、河合も迅には申し訳ないと思いつつ場所を譲ってもらう。

細い細い隙間から中を覗き込むと、奇妙な光景が広がっていた。

桐青の野球部部室は、入ると正面に背もたれのあるベンチのような長イス、両側にロッカーがある。

その長イスの左側に桐青のエース、高瀬準太。そして右側には西浦戦を経て正捕手となった、仲沢

利央。二人ともまだ着替えていない。泥にまみれたユニフォームのままだ。

そして真ん中に、見ない顔があった。

ふわふわのうす茶色の髪に、同色の瞳。おびえた表情と小さな体があいまって、小動物のように見

える。制服が桐青のものではないので、他校生だろう。

 

 

「あれ、誰だ?」

 

 

横の島崎に問うと、西浦のピッチャー、と短い返事が返ってくる。

もう一度縮こまっている少年に目を向けて(実際は高校生なので少年というのもアレだが、彼には

そんな表現が一番合っている気がした)、ようやく思い出す。先の夏に甲子園予選で戦った、西浦

高校のピッチャーだ。確か名前は、三橋。

しかし納得したのと同時に新たな疑問が浮かび上がる。なぜ西浦のピッチャーがここにいるのか?

今日は練習試合もなかったし、西浦だって練習があるだろう。

更に不思議なのが、部室内に流れる空気だった。あまりにギスギスしている。他校のピッチャーを

挟んで、準太と利央が睨み合っているのだ。はじめは二人が三橋を睨んでいるのかとも思ったが、

どうやら小さな少年の頭の上で火花を散らせているらしい。

 

 

「なにやってるんだ、あいつら…?」

 

 

楽しそうなのをまるで隠さずに見ている島崎に再び問う。島崎はこちらにちらり、と視線を向ける

と、

 

 

「修羅場だよ、修羅場」

 

 

そう言い放って、また部屋内に視線を戻す。河合はわけがわからなくなって、とうとう眉間にしわ

を寄せた。

 

 

「修羅場って、どういうことだ?」

 

 

青春をモットーとする野球部の部室には似合わないにもほどがある単語に、河合は更に問う。どう

やら予想の範囲を超えている内容らしい。ならば聞くしかない。

島崎はくくっと声を出して笑うと、野次馬根性丸出しな声で説明を始めた。

 

 

「言葉のまんま。利央が三橋を呼び出したらしくてさ。ほら、前に利央が西浦の四番とメアド交換

したって言ってただろ?それで紹介されたとかなんとかで。んで利央があの子のことやたら気に入

ってさ、よかったら今度練習ない日に桐青の練習見に来ないかーとか誘ったらしい」

「他校の選手に?」

 

 

驚く河合に島崎は肩をすくめて苦笑い。

 

 

「惚れた弱み、だな。もーゾッコンみたいで」

「……」

「んで呼び出してみたら、実は準太と三橋が知り合いだったって判明したわけ」

「えぇ?」

 

 

河合は予想外の展開に目を大きく見開く。確かに対西浦戦で準太は三橋に関心を持っていたようだ

ったが、それ以上に関係を持っているとは思ってもみなかった。面白い顔に爆笑していただけじゃ

なかったのか?

島崎は一言一言しゃべるたびに思い出し笑いがひどくなるようで、とうとう身体を折り曲げて笑い

を堪えはじめる。

 

 

「どんな手使ったんだか知らないけどさ…っ、もう、三橋、高瀬さん、とかってナチュラルに呼び

合う仲だったんだと!そーしたら利央が対抗意識燃やしちゃって、俺のことは利央でいいよーその

かわり廉って呼ばせてーとか言ったもんだから準太のヤツキレて…くくっ」

「笑い事じゃないだろ…」

「その後がまたひどくて!利央が見せつけようとしたのか三橋のことデートに誘って…」

「はあ!?デート!?

 

 

さすがの河合も声を上げてしまった。男同士、とかいうことはこの際置いておくとして(置いてお

く河合も河合だが)、会っていきなりデートってどうなのか。最近の若者はそういうことは早いも

のなのか。自分が一つ二つしか年が違わないのを棚に上げて河合はぐるぐる考える。

確かに三橋廉という少年はどちらかというと可愛らしい部類に入る。庇護欲を掻き立てられる感じ

はするし、そういう対象として見てもおかしくはないかもしれない。

 

 

――しかしいきなりデートはやっぱりどうかと思うぞ、利央…。

 

 

なんだか息子の恋愛事情に首を突っ込んでいる父親のようになっている河合だが、島崎はいつもの

ことと割り切って話を進める。

 

 

「そこで準太が、その前に俺とのデートどうしようかーなんて言ったもんだから互いに完全にキレ

たんだなー。そこからはもう罰言雑言の雨嵐。『てめえのその性格の悪さが捕球やリードにも影響

してんだよ!』とか『そうやってひねくれてるからボールも変なとこばっか行くんですねー!?』と

か…もう三橋放っといてガキのケンカだよ…っ。あーおかしい…」

「大丈夫なのか、あいつら…」

 

 

河合は頭を抱えた。自分のなしえなかった夢を託した次代のバッテリーが、一人の少年を巡って大

ゲンカ…頭だって痛くなる。それにこんな状態ではチーム全体に嫌な空気がもたらされてしまうだ

ろう。練習も試合も厳しく、しかし何よりも楽しんでやることが大切なのだ。肝心のバッテリーが

これでは楽しくも厳しくもあったものではない。

そこでふと、河合は新たな疑問を覚えた。なぜ島崎はここまで部内事情に詳しいのか?ここで盗み

聞きしていただけで今の内容全てを知ったとは思えない。前々から後輩に話を聞いていた…?それ

なら自分がまるで知らなかったことに違和感が残る。島崎に教えて河合には教えない、というのも

妙な話だ。もしかして自分だけに教えてくれていなかった、とか?それはそれでかなり物悲しい。

 

 

「なあ、なんでお前そんなに詳しいんだ?」

 

 

恐る恐る聞くと島崎は、ああ、と視線は前に据えたまま、後ろに突っ立ったままの迅に向かって手

を軽く上げる。

 

 

「情報提供感謝するぞ、迅」

「はは…まあそういうこと、ってわけで」

 

 

迅はため息をつきながら弱々しく笑う。どうやら修羅場状態を見かけた島崎に問い詰められたよう

だ。一年なのに気苦労が多いよなあ、と半ば気の毒になる。

迅はうんざりしたように半眼でドアを見る。その向こうには相変わらず無言の三人。

 

 

「もう、ほんっと止めてほしいっすよー…。こちとら前から散々二人のノロケ聞かされてて、それ

だけでウンザリしてたってのに…。今日、三橋が来たときも俺が最初に話しかけたら二人に攻撃さ

れたんですよ!?別に話しかけるくらいいいじゃんか…」

「それはお前がやっぱ細っこいなーとか言って腕に触ったからだろ。セクハラだセクハラ」

「し、慎吾さんまでそういう…!」

 

 

河合は冷や汗を垂らす迅から、ドアの向こうに目を向けた。

まあいろいろな問題を抱えたバッテリーはともかく、やはり可哀想なのは真ん中で震えている三橋

だ。どう考えても彼は悪くない。男を惹きつける魅力があるから、とかいうのは本人の意向ではな

いのだろうし。

 

 

――ただ遊びにきてこれじゃあ、脅えるのも無理ない、よな…。

 

 

数回しか会ったことのない人間二人に突然競うようにデートに誘われて(それも男)、わけもわか

らないままケンカに巻き込まれて…普通なら逃げ帰っているところである。

河合は少しだけ三橋に感謝した。もし本当に逃げ帰っていたら、取っ組み合いのケンカに発展しか

ねないだろうから。二人は好きな子の手前、なんとか口ゲンカに止めているようなのだ。準太は眉

間がピクピクいっていて今にも爆発しそうだし、利央は長イスの背を掴む手が震えていて今にも殴

りかかりそうである。

更に何分顔の整った二人の睨み顔は怖い。普段タレ目のはずなのに、なんだあの般若みたいな顔!

迅が脅えるのもよくわかる。

対西浦の試合が頭をよぎる。あのときも三橋はだいぶビクついていた。そういう性格なのだろうけ

れど、駆け寄っていってなんとかしてあげたくなる。もしかしたら突然すぎて二人の言っているこ

とをよくわかっていないかもしれないし、そうなると余計に悲劇だ。いや、何も知らない方がいい

のか?

すると、三橋の瞳にじわ、と涙が浮かんだ。

 

 

「あ…」

 

 

河合は思わず腰を浮かせた。別に河合が悪いわけではないのに、妙に謝り倒したい気分になる。今

にも、大粒の涙がこぼれ落ちそうで。

横でどういう流れなのかわからないが迅をはがいじめにしていた島崎は、ふと思い出したように口

を開いた。

 

 

「こういうの何て言うんだっけ……ああ、そうそう、三つ巴?」

「いい加減にしろよ、お前」

 

 

島崎の明るい声に答えるように、普段の準太からは考えられないような低くドスのきいた声が部室

に響いた。二人に挟まれて、三橋がびくりと震える。

準太はそれはそれは恐ろしい爆発寸前な顔で利央を睨みつける。いい男は視線で相手を妊娠させら

れるというが、準太の場合視線で相手を地獄へ突き落せそうだ。

 

 

「困ってんだろ。三橋が」

「困らせてんのはアンタでしょ」

 

 

利央の、これまた聞いたこともないような低い声がそっけなく返す。やはり三橋が縮こまった。利

央は利央で爆発しそうだが、彼の場合むしろキレると目が座って冷静になるタイプらしい。という

か利央が準太にタメ口で話すのを初めて聞いて、河合元主将は胃が痛くなりそうだった。

あの素晴らしい青春の日々は、どこへ行ってしまったのか。そもそも存在していなかったのか…。

 

 

「そもそも、なんで準さんとレンが知り合いなんですかね?」

 

 

利央は「知り合い」を妙に強調して単調な口調で凄む。敬語に戻っているが、そこに敬意は一切感

じられない。

 

 

「俺は田島とメアド交換してたからよくレンの話聞いてましたけどー、準さんて、抜け駆けするよ

うなひとだったんだなって」

「黙れよ、お前がそういう」

「黙りませんよ」

 

 

利央の言葉を準太が遮り、更に利央が遮った。イヤーな雰囲気とにらみ合いが続く。

 

 

「俺は街で偶然会って話しかけて知り合ったってだけだ。お前みたいに姑息な手使ってないんだよ」

「へー?俺は別に田島に紹介されただけですって。すげー投手がいるからって、ね。準さんのそれ

こそ怪しーな。ホントに偶然なんですか?」

「当たり前だろ。お前何想像してんだよ?ってか、その田島にメアド聞いたのだって三橋目当てだ

ったんだろーが」

「それは単なる準さんの妄想ですよ。そりゃレンはカワイーし、彼女にしたいなーって本気で思っ

ちゃったりしますけどね?」

「ふーん。まあ思っちゃったりするのは自由だもんな?俺は本気で彼女にするつもりなんだけど」

「なに言ってんですか、それは俺の方ですよ!」

「三橋は俺のだって言ってんだよいい加減にしろ利央!」

「しません!ぜってーしねー!てゆーかアンタがあきらめろ!」

「駄々っ子かてめーは!」

「それはアンタだろ!」

「この馬鹿利央がー!」

「準さんのアホー!」

 

――あああもう!!

 

 

がるるるる、と唸りながら睨み合う二人を見て、河合元主将は重い重い腰を上げた。

もう、バッテリーの危機とかそういう問題ではない。正直こんな小学生みたいなケンカ初めて見た。

 

 

――というか、もう、真ん中のあの子!

 

 

怒り狂った両名に挟まれ、三橋は今にも気絶しそうである。目元の涙は大粒に膨れ上がり、ああ今

にもこぼれ落ちた!

だのに準太も利央もその様子に全然気づかないのである。好きな子を前に何なんだお前らは。さす

がの河合も怒りが湧いてくる。

 

 

――とりあえず、なんとかしよう。

 

 

河合はそう決心し、部室のドアを押し開けた。横で島崎が、後ろで迅が、ギョッとしたような表情

をするがそれは無視。

 

 

「おい」

 

 

特に怒気は込めず、河合は呼びかけた。

準太と利央はちら、とこちらに目を向けると二人そろって少し驚いたように目を見開き、しかしや

はり二人そろって河合から視線を外す。怒られる前のいたずら小僧のようだ。

河合は三人に近づく。三橋は展開の早さについてゆけず瞬きした。また瞳から涙が一筋、流れた。

 

 

「久しぶり、です…和さん」

「…」

 

 

何とか準太は押し殺した声を引きずり出し、利央は余裕のなさからか何も言わない。ぎゅ、と悔し

そうに唇を噛んだのだけが見えた。

 

 

「準太、利央」

 

 

河合は厳しい目で後輩たちを見つめる。この素晴らしい元主将が優しくも厳しいということを誰よ

りもよくわかっている二人は、深い声で名を呼ばれて固まる。

 

 

「自分たちが、何をやってるかはわかってるな?」

「……はい」

「……はい」

「なら、見てみろ」

 

 

河合に促されて、二人はきょとんとして三橋を見た。三人の視線が一気に自分に集まってきたので、

三橋はベンチの背に背中をひっつけて縮こまる。何か悪いことでもしてしまったのか、やっぱりそ

うなのか?思ったとたん、瞳から涙がどんどんあふれ始める。

準太と利央は顔色を変えた。

 

 

「うっ…へぐっ…」

「ご、ごめん三橋!お前が悪いんじゃなくて、その…」

「そうだよ!そう!悪いのはレンじゃなくて、準さんだから!」

「はあ!?何言ってんだ利央!あのな、三橋…コイツがお前にヘンなことしようとしたから…!」

「へ、ん―――!?聞いて聞いてレン、準さんたら…!」

「いいかげんにするんだ!」

 

 

部室に雷が落ちたがごとく、河合が一喝した。今までそんな声を出す河合を見たことがなかったの

で、準太と利央は青ざめた。

 

 

「まったくお前らは…三橋君が困ってるだろ!そんなこともわからないのか!?

「うっ…」

「ひっ…」

「ごめんな、怖かっただろ…」

 

 

河合は腰を落として三橋と目線を合わせた。近くで見るとますます小動物みたいな、可愛らしい顔

をしている。

ぽすん、と頭に手を置く。柔らかい髪が心地よく手に馴染んだ。

 

 

「こいつらも悪い奴らじゃないんだ。ただちょっと、周りが見えないところがあって…」

「お、おおおお、おれっ…」

 

 

三橋がぶるぶる震えながらも、必死に声を出す。目線があっちにいったりこっちにいったり挙動不

審になっている。

 

 

「わ、わるいこと、した、なら…」

「え?いや、君は悪くないよ」

 

 

悪いのはこいつら、と河合は三橋とは違った意味で震える投手と捕手をきつい目で見やった。二人

は気まずそうに縮こまる。本物のいたずら小僧のようで、河合はようやく息をついた。

 

 

「ほら、二人とも」

「ごめん、三橋!」

「ホンット、ごめん!」

 

 

準太と利央に頭を下げられて、三橋はやっぱり展開についてゆけずキョトキョトとして、でもとりあ

えず怒られているのではない、ということだけはわかって、こくりと首を縦に振った。

 

 

「あ…い、え、いい…です、その」

「おー大団円っぽいなー!」

 

 

突然の大声に驚いて三橋が視線を上げると、片手を上げながら島崎が、その後ろから迅が部室に入

ってきた。準太と利央が目をまるくして、ようやく自分たちの言い合いが見られていたことに気づ

いて、口をぱくぱくさせている。

河合は島崎の都合のよさに苦笑しつつも、まあな、とでも言うように肩をすくめて見せた。

島崎は河合の横から三橋を覗き込んで、にこにこ笑顔を浮かべる。そしてとんでもないことを言い

出した。

 

 

「やっぱ可愛いなー。な、こいつらほっといて、俺らと遊びに行かない?」

「ハア!?

 

 

利央が信じられない!と叫ぶ。同じように怪訝そうな顔をした準太も無視して、島崎は河合に向き

直る。

 

 

「和己もいい考えだと思うだろ?迅もさ、なんだかんだいって話してみたいとかで」

「うそです!うそですそれは!うそですからね準さん!」

 

 

今後の部活動に支障をきたしてはいけないと、河合よりもむしろ準太に迅は必死に言い繕う。

河合はうーんと顎に手を当てて考えて、三橋を見た。

確かに他校と交流を深めるというのも悪くはない。一度負けた相手だし、来年はもっと強くなって

やってくるだろう。ならば練習試合の約束を取り付けるためにもいいし。そういう利害関係を抜き

にしても、同じく野球を愛する者として話をしてみたいというのはある。

しかし、今は自分は野球部主将ではないのだし。彼らの先輩ではあるけれど、まあそれは別に。

 

 

「うん、そうしようか」

「か、かずさっ…!?

「かかかかか、和サン!?

 

 

思いもよらぬ展開に腰を浮かせた準太と利央を無視して、河合は三橋に微笑みかける。たぶんここ

にいる他の誰よりも今の三橋を安心させられる笑顔で。

 

 

「どっか食べに行こう。時間があれば、だけど…」

「あ…ダイジョブ、で、す…!」

 

 

食べ物の話が出たので三橋は目を輝かせた。その様子を見て河合はうんうんと頷き、三橋の手を引

く。少しバランスを崩しながらも、河合の力で簡単に三橋は立ち上がった。以前試合の合間に、転

びかけたのを支えてもらったように。

 

 

「う、おっ」

 

 

顔を上げるとにこ、とやってきた河合の朗らかな笑顔に、三橋はふひ、とくすぐったそうに笑う。

なんだか恋人どうしみたいだと思ったが、迅は口には出さなかった。

すると河合は後ろを見ずに、実にのんびり命令をした。

 

 

「準太と利央は着がえて、今日は家で反省すること」

「「そんな…!」」

「慎吾と迅は、まあ今日はとっとと帰ること」

「「……、えええ!?」」

「じゃあ、行こうかー」

 

 

河合はさらっと宣言して、歩き出す。

握ったてのひらは想像通りに小さくて、それに感じたことのない愛しさを覚える。ふ、と自然にこ

ぼれる笑み。

振り返れば、てこてことこちらを見上げて付いてくる少年の姿。

あー今年は受験だけど、学校帰りの寄り道はしょうがなくなるかもしれないなあ、と思いつつ、河

合は三橋を気遣いながら、部室を後にした。

ドアを閉める直前にちらっとだけ見えた四人の顔には、信じられない!!と書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これって桐青ミハであってますか…?キャラが違っててごめんなさいorz

題名は長い題をつけたかったというだけだったりします。「ひとつよろしく」って意味です。

信じられないのは私の文章力だ…読んで下さった猛者の方、ありがとうございます!!!

07,8,30