<call,name,mine&yours>

 

 

 

 

 

 

「あ〜…痛かったぁ…」

ツナは濡れたタオルで頬を拭いた。熱い痛みにじんわり冷たさが広がって、心地よい。

そんなツナを見てコロネロはふん、と鼻を鳴らす。愛用のライフルで地面を叩くと一喝。

「まったくボンゴレの次期ボスがこの程度かコラ!」

「だ…だからって何かあるたび殴るなよ!」

身じろぎしながら叫ぶ。

今日リボーンは用事があるとかで、ツナの修行を見れなくなった。やった、平和な一日よようこそ!と

小踊りしかけたツナだったが、そこにやってきたのはかのイタリア海軍鬼教官コロネロ。「俺がいない

間ツナを鍛えとけ」というリボーンの言葉に、ツナはもちろんコロネロまで驚愕の声を上げた。どうや

ら理由も教えずに呼び出したらしい。ということで、互いに不本意なまま修行が始まったわけだ。アウ

トドア派なコロネロのせいで、いつもは部屋の中でのドタバタ修行が、近くの公園が舞台になってる。

しかし理由も聞かずに来るコロネロもコロネロだろ、とツナは思う。アルコバレーノってヒマなのか?

生態が謎なだけによくわからない。まあ、随分長い付き合いになるリボーンに関してさえ、よく知らな

いのだけれど。

――なんでこう、アルコバレーノってさ!

無意識にため息をついていた。肩を落とし、はあ、と息を吐き出す様を見逃さず、コロネロの目が光る。

「何やる気ない顔してんだ!さっさと立て!」

「ふがっ!?

もろに頭をひっぱたかれて、ツナは変な声でうめいた。せっかく頬の痛みが和らいできたというのに、

今度は頭がガンガン痛む。手を当ててみると、どうにかコブはできていないようだった。不幸中の幸い

…なのだろうか。

普段からリボーンの暴力で慣れているとはいえ、手加減なし(少なくともツナにはそう思えた)の教官

の愛の?ムチはかなりキツい。まだ修行が始まってさして経っていないのに、ツナの体は休息を要求し

ていた。

「なあ…コロネロ」

「なんだコラ」

すぐさま返ってくる鋭い眼光に、正攻法は無理だと超直観が告げた。しかしおだててどうこうなる相手

ではない。ツナはさきほど思ったことを口にして、とりあえず修行開始を免れようとした。

先に進めたくなければ、話を逸らせ。長年のダメツナ暮らしで培った、あまり自慢できないスキルであ

る。

「やっぱさ、似てるよな」

「誰と誰が」

「うん?お前と、りぼ…」

「俺とリボーンを比べるな」

言い終わる前に、セリフを奪われる。コロネロの声は日曜の公園に、至って淡々と響いた。

ツナは目をぱちくりと瞬かせ、目の前の臨時家庭教師を見つめる。彼は怒っているようには見えず、

その横顔からは何か静かな闘志とでも言えばいいのか…そんなものが読み取れた。

そういえば、こいつらって何かと喧嘩して張り合ってるんだっけ。ツナはぼんやり思った。幼馴染。自

分には縁のない存在であり、関係。ちょっと羨ましくもある。

コロネロは黙ってしまったツナを横目で見て、ライフルを背に担いだ。

「わかったか、コラ」

「別に、比べてるわけじゃ…なんていうか、俺、お前たちのことよく知らないなあ、って、思って」

「それもやめろ」

「へ?」

コロネロはツナを見上げて鼻を鳴らす。表情が変わらないのでよくわからないが、ちょっと苛立ってい

るようだ。

「俺とあいつを一緒くたにするなコラ!同じアルコバレーノだからって、虫唾が走るんだよ」

「そ、そんなこと言われても…別に、りぼ」

「リボーンのことはどうでもいい」

また、言葉を中断される。コロネロはくるりと背を向けた。

なんなんだ。ツナは眉間にしわを寄せた。何もそこまで嫌がらなくてもいいんじゃないのか?一応幼馴

染なんだろ?そう思ったが、また殴られてはかなわないので大人しくいうことを聞くことにした。触ら

ぬ神に崇りなし、だ。

でも、やっぱり気になる。ツナは恐る恐る、教官の後ろ姿に話しかけた。

「じゃあ、ひとつだけ聞いていいか?」

「なんだ」

「お前ら…じゃない、コロネロはさ、」

「え?」

驚いたような声で、コロネロが振り返った。よくよく見ないとよくわからないけれど、目を幾分か見開

いて。綺麗な青い目が丸くって、ツナはどきりとした。

「……」

「え、ど、どうかした?コロネロ…」

普段見ない彼の表情の変化に、ツナはわたわたしつつ尋ねる。何かまずいことでも言ったのだろうか。

コロネロはそのままの表情でツナから視線を落とし、ため息をついた。

「いや、なんでもない。続けろコラ」

「う、うん…?あのさ、お前って…」

「違う」

またぴしゃりとさえぎられる。今度は何なんだよ!?ツナは叫びたくなったが抑え、息をのみこんだ。

「さっきの言葉からだ」

「言葉…?」

ツナは首を傾げた。自分は何か特別なことでも言ったのだろうか?

視線を落したままの彼の金色の頭を見つめながら、ツナは呼びかける。機嫌を損ねないように、そうっ

と。

「…コロネロ?」

「なんだ、コラ」

途端にコロネロは顔を上げた。表情もいつもの彼にもどっていた。

「……」

なにがなんだかよくわからない。ツナは盛大にため息をつくと、なんかもういろいろあきらめることに

した。立ち上がって、お尻の砂をパンパン叩いてとる。

「もーいーや…修行やろ、修行。そうじゃないとまたりぼ」

「聞くことがあったんだろコラ。あいつの話なんかで誤魔化すな!」

突然コロネロが声を荒げた。ツナは驚いて肩をちぢ込ませる。

さっきまで冷静に接していたのに、この差はなんなのか。まるで、我慢していた怒りが爆発したかのよ

うだ。しかし、ツナからしてみれば我慢しているのはこっちのほう、である。

「な、何怒ってんだよ!?

「怒ってねえ!お前がはっきりしないからだコラ!」

「はっきりって…俺はただ、何でそんなに嫌なのに俺の修行なんか見に来るんだ、って聞こうと思った

だけだぞ!?

ツナはわけがわからなくて自然と涙目になる。それを見て、コロネロの眉がぴくりと動いたが、ツナは

叫ぶのに必死で気づかなかった。

「……」

「だいいち、さっきから俺のセリフさえぎるなよ!まったく、ホントにお前にしろ、リボー…」

「ツナ」

静かに、しかししっかりとした声が、またツナの言葉をさえぎる。ツナはそれにイラッとして、また文

句をぶつけてやろうと思ったが。

コロネロがじっと、ツナを見上げていて。

あまりにまっすぐな瞳に、動けなくなる。

「な、に…?」

「今日の、俺が家庭教師をしている間の、ルールを決めるぜ、コラ」

腰に両手を当て、胸を張って、コロネロは宣言した。

「リボーンの名前呼ぶの禁止だ!」

「え…ええっ!?

そういえば、さっきからさえぎられていた言葉はほぼすべて、かの家庭教師の…。

――でも、なんでそんなことを?

あっけにとられたツナを楽しそうに見据えて、コロネロは笑った。

 

 

 

「その分、俺の名前を呼べ、ツナ!」

 

 

 

その日、それ以上殴られることはなく。蹴られることもなく。

ただ、二人は互いの名を呼んだ。

 

 

帰ってきたリボーンに、報酬はと問われ、コロネロは断った。

訝しげな顔の黒い男に、コロネロは意味ありげに笑って。

いつか、ボンゴレから頂くからな、コラ。

そう笑ってやった。

 

 

 

 

 

まだツナ、お前にはよくわからなかっただろ。

 

 

でも、俺は、今日。

 

 

ただ、俺の名を呼んでほしくて。

お前の名を呼びたかった。

 

 

 

ただ、愛するひとからの名を。愛するひとの名を。

 

 

 

 

 

終わり

 

 

 

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うわあ…どうしたんだ空月…orz想定外の展開過ぎて笑える。

でもコロツナってあんまり二人っきりで会えないから、さすがのコロもそんな時ばかりは他の男の名前なんて呼んで

欲しくないんじゃないかなあ、と思うのです。でも自分の名前が呼ばれると不意打ち過ぎてドキッとする(笑)コロ

ツナはそんな感じがちょうどいい。顔真っ赤にしたコロネロとかすっごく好きなのですv

泰匡様、こんなのですみません!「窓」シリーズのコロツナを気に入って頂けたということで、ラストが微妙にリン

クしてます、一応…。この報酬が、十年越しのキスだったらいいなーとか思って書いていました。へ、返品可です!

力足らずですみませんでした…!

 

 

07.6.29