冷えた指先
「おおっとお」
思わず声を上げてしまった。瞬間左隣から確かに伝わってきた震えに、やってしまったと後悔する。
普段からリアクションがオーバーだとか派手だとか、終いにはウザいとまで言われてしまう水谷は、本当ならやってはいけない相手にそんな反応をしてしまった。けれど勿論そんなことするつもりはこれっぽっちもなかったし、オーバーと言ったって別に大声だったわけでもない。ただ、黙っていた方が身のためだった、というだけ。
ぎろり、と他の奴らから睨まれて、冷や汗を流しながら今後の自分の身の危険に思いを馳せた。
「みずたに、くん」
横から声がかかる。水谷が声を上げることになった原因であり、この後いろいろな恐ろしい連中に嫌がらせされる原因でもある。
三橋は水谷の手を握って、不安そうに言った。でも普段から不安そうなところがあるから、特別慌てるなんてこともない。ただちょっと、ヤバいかな、と水谷は笑顔を作る。
「あの、あの…俺の手、どうかし、た…?」
「うん?あーいやいや、ちょっと冷たくてびっくりしただけ。驚かしてごめんなー」
頼りないと評判の笑顔でそう言ってやると、三橋は珍しくすぐに落ち着いたようだった。安心したように微笑んで、瞑想に備えて目を閉じる。
水谷も、他の面々も同じように目を閉じて、シガポの掛け声とともに瞑想が始まる。
「はーい、終わりー」
妙に間延びして聞こえるシガポの声に目を開けると、朝の陽光が思いの外眩しかった。
皆が手を離し、雑談もそこそこに次の練習へ入ってゆく。
三橋は自分の右手を見つめた。握って、また開いてもその中には何もないけれど、確かに彼に触れてあたたかくなったてのひらは、なんだか元気をくれる。
「みはしー、さっきはごめんー」
「あ…う、うう、ん!」
水谷に声をかけられ、三橋は首をぶんぶん振った。だってあのときはただ、ちょっと驚いただけだったから。
水谷はどこか嬉しそうな三橋に首を傾げ、その前髪が汗で額に貼りついてしまっているのに気づいた。
「三橋、髪くっついてるから、取るなー」
「う、うお、あ、ありが――」
(あれ?)
水谷は三橋の髪を整えると満足そうにヘラリと笑い、歩き出した。隣りから阿部や泉や田島に話しかけられ、半ば尋問されている。
そんな皆の後ろ姿を見送って、三橋は自分の額に触った。
彼のてのひらはあたたかかった。なのに、額に触れた、その指。
(なん、で――つめたいんだ、ろう)
(つめたいのは、緊張、してる、とき、だ)
(なにに、緊張して、た、の――?)
08/03/07