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はみだしたマニキュア
「あのさ、降谷」
「なに?」
じぃ、と降谷の手元を眺めながら栄純は、むむむ、と唸った。
別に自分だってしていることのはずなのにそんなに珍しいのだろうかと、降谷は降谷で首をひねる。
「もしかしたら、俺の勘違いかもしれないんだけど」
「じゃあ勘違いなんじゃない」
「いきなし全否定すんなっ!」
顔を真っ赤にしてまで怒る理由があるようには見えなかったのだが、自分に向かってここまで必死になってくれる栄純はいいな、と思う。それから可愛いな、と。
栄純は降谷の手元から視線を動かし、そのまあるい黒い瞳を降谷に向けた。いわゆる上目遣いというやつで、降谷の手が一瞬止まり――何事もなかったようにまた動き出す。
(平常心、平常心…)
心の中で唱えてみるも、表情は普段と変わらないというのに心臓はばくばくとうるさい。たぶんもう一度栄純を見たらそれどころではなくなってしまうので、できるだけ頭は手元に集中させる。
投手にとって手は命だ。こうやって日々のケアが大切である。
どう考えても目の前の(見てないけれど目の前の)ぶきっちょがこんなことをうまくできるとは思えないので、誰かにやってもらっているんだろうか。
(それは…やだな)
そんな子供じみた思いの奥に潜む想いに気づいたのは、何時頃だろう。天然だとか言われる自分にしては結構早かったように思えるのだが。
栄純は何も言い返さず黙々と作業を続ける降谷に対し、少々気が引けたものの、仕方ないので聞いてみる。
「お前さあ」
「うん」
「俺のこと、好きだったりする?」
まさかな!
栄純が笑顔でそう言った瞬間、完全に手元が狂った。
08/03/07