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ありえない寝ぐせ




「うわ、三橋それどーしたよ!」
 田島が何やら大声を出すので、朝練に既に到着していた面々が寝ぼけ眼で声の方角を見やった。
 グラウンドの入口にいたのは三橋で、みんなと同じように眠気から半眼になってしまっている。頬にはシーツのあとらしいものまで付いている。可愛らしい顔が台無しと言えば台無しで、微笑ましいと言えば非常に微笑ましい。
 ここまでは普段通り。おかしいのはその頭だった。
 いつも梳かしていない三橋の頭は茶色い癖っ毛があちらこちらへ飛び跳ねている。歩くたびヒヨコのようにぴょこぴょこ揺れるそれは皆をいつも和ませているのだが、今の三橋の髪はなぜか後ろで二つに縛られていて、女の子のようになっていた。留めているのは赤い花飾り付きのヘアゴムである。
 三橋は興味津々で近寄ってきた田島に慌てて頭を押さえた。
「きの、う、いとこが、来て…」
「群馬の?あの女の子っ?」
「うん…それで、朝、起きた、ら、こんな…」
 本人はとても恥ずかしいのだろう。必死になって頭を押さえているが、隠しきれるはずもない。逆に女の子っぽさが増して、可愛らしい。
「ね、寝ぐせ、対策、とかって、ルリってば…!」
「別に変じゃないって。なあ?」
「うん。髪も邪魔にならないし、いいんじゃない?ね、三橋」
 泉に言われ栄口に励まされ、三橋は目をキラキラさせた。
「そ、うかもっ!あり、がと、う!」
「どーいたしまして」
 栄口に頭を撫でられ、三橋はフヒ、と笑う。モモカンはベンチからそれを見て、さすがナイスフォローね、と心の中で称賛を送った。



 そんな朝靄の中の微笑ましい光景を遠くから見つつ。
「かわいーなーみはしー」
「黙れクソレフト。そんなこと見りゃわかる」
「う……はいはい…」
「ってか珍しいな阿部。お前が走り寄って行かないなんて」(いつもなら抱きしめるくらいするだろうに…)
「花井か。いや、ちょっと考え事を」
「へー珍し…」
「どれだけすごい寝ぐせをつけてくれば、三橋に直してもらえるだろうな?」
「やめとけそれは」
「てかお前のそれは寝ぐせ対策か?」
「ありえないありえない」







08/03/07