亀よりも遅く




 ハンバーガーをはぐはぐと食べ、ポテトをもぐもぐと食べ、その度ぼろぼろと食べカスが落ちる。
 口元をぬぐってやると、こぼれるように微笑みが咲いた。
「ありが、とう、ございます、」
「うん、いいよ、ゆっくり、で」
 なんだか三橋につられて話し方が途切れ途切れになってしまう。それは病気の症状のように三橋を好きになるほどに酷くなるらしく、自覚する度に河合はどうも苦笑いしてしまう。
 今日はどうも野球漬けで勉強していないらしい三橋に数学やら理科やらを教えに来たのだった。  苦手科目が女の子のようだと素直な感想を述べると、少々むくれた。
「そんな、こと、ない、ですっ」
 妹の相手をしているようで微笑ましい気分になってしまうのは立派な?高校生男子の三橋に対して申し訳ないと思いつつ。
「ごめんな。じゃあ始めようか」
 トレイを横にどけ、教科書をノートを広げる。三橋が慌てて指をぺろぺろ舐めた。
「どこがわからない?」
「ぇえ、と、」
 ここです、と三橋が指差したのは因数分解。これがわからないなら苦労するだろうと思いながらも口にはしない。
「ええと、これはな……」
 マックで頭を突き合わせて、ゆっくりゆっくり、説明をしていく。三橋はときどき頷き、ときどき首を傾げては唸った。
 島崎にはもっと押せ押せで行くべきだと言われた。準太にはたまには河合のペースでいってもいいのではないかと言われた。山ノ井には「らしいね」と笑われ、利央には――頑張ってくださいとなぜか涙ながらに握手を求められた。それはそれでどうなんだとやはり苦笑するしかなかったが。
(でもなあ)
 三橋がふと、顔を上げる。何か質問だろうかと河合が尋ねる前に、
「うひ」
「!」
 ふわり、微笑まれてしまっては。
 なんだか焦ることなどバカバカしくなってしまうのだから、これからも三橋のペースに飲まれてゆくのもいいなと思える。
(誰かに追い越されないなら、俺はこのままでも)
 このまま三橋といっしょにしばらく歩くのも、自分らしい。
 そんな勘違いを、ぎりぎりまで許してもらえないだろうか。







08/03/21