ブレーキの必要性




「だからね、無理しなくていいんだよ?」
「う、ん」
 知っているんだ。それは誰よりも。だって自分のことだから。
 自分一人が、三橋廉一人がどれだけ足掻いたって、それはよくないのだということは。
 でもね、栄口くん。俺、もう少し頑張りたいんだ。
 あなたが見てくれている前、だから。(ねえ駄目?やっぱり今日も、もう駄目?)
「で、でも、だいじょう、ぶ、だよ?」
「うん、わかる。だけど今日はもう帰った方がいいよ。ちょっとふらふらしてる」
 かもしれない。でも俺はいつだってふらふらしている気もする。
 だから大丈夫。わかる、なんて言わないで?
 息が上がる。筋肉が悲鳴を上げる。瞳に疲労の色が浮かぶ。
 あなたに、気付いてほしいから、だ。
 栄口くんは俺を心配して、ぽんぽんと頭を撫でた。ちょっとだけ、厳しい目をしていた。
「三橋。本当にエースになりたいんなら、ちゃんと休むこともできないと駄目だよ」
「……う、ん」
「普段から多少自分を制御できてないと、試合のとき困るかもしれないだろ?」
 彼の顔は困ったようなものに変わった。ああ、俺が言うこと聞かないからだな、と思って泣きたくなる。俯いた。
「ご、めん、ね…」
「へっ?いや、いいんだよ」
 心配だから。そう言って彼はいつもの笑顔でセカンドへ向かい、俺は大人しくマウンドを降りる。
 本当は彼にきちんと、なぜ今ここにいたいか、いなければならないか言えばいいんだ。そうすれば、マウンドに立ち続けることはできなくても、もしかしたらすごく驚かせてしまうかもしれないけれど、心は安らかになる気がする。
 のに。


 ――自分の制御の仕方なんて、知らなければよかった。







08/03/21