「背中の1,また薄くなってる!」 〈背番号、1〉 大声で呼びとめると(別に止まれ!なんて言ってないんだけどね!)、薄茶の頭が ピョン!と跳ねた。脅えてビクッとしたみたいに見えるけど。俺相手だからそん なんじゃないって知ってる(これってちょっと得だよね!)。 三橋はくるりと振り向いた。顔が赤くて、目は泳いでるけど、うん、うれしそー だ! 「た、たじまく…」 「よーしッ、今書いてやっからなー!!」 黒のマジックをぶんぶん振りながら近付いたら、三橋はこくんとうなずく。もじ もじしてら。かわいーなーって思う。 背中に、でっかくぶっとく、"1"の文字。公式戦のユニフォームに負けないよう に、簡単に消えないように、何回も書く。 三橋にとって、だいじな1番。これは三橋の1番なんだ。 そう思うと、俺のこの仕事って、かなり重要かも! 「た、たじまくん…」 「う〜ん?」 「も、もう、いいんじゃないか、な?」 「もーちょっと!」 だってこれは、お前の大事な大事な1番なんだぜ! そう、たったひとつの… 「……」 そうしたら羨ましくなった。 「みはしー」 「な、に?」 「俺も1番ほしいなー」 「…!?」 三橋が振り向いた。あとちょっとでマジックが"1"以外にもついちゃいそうで、 俺はビビった。 「わー、ダメだろ振り向いたらー!」 「だ、めだ、よ!」 三橋は涙目になって俺にしがみつく。正直、ドキッとした。 「だって、これは、オレの…」 「うん、そっちは三橋のでいいよ!」 当然のように言うと三橋は目をぱちくり、と瞬かせた。いつものワケガワカラナ イ、というカオ。 「オレはさー、三橋の打席に1番で入りたいんだ」 「…うひ?」 おー、混乱してる混乱してる。 そりゃそうだよな、オレもなんか変なこと言ってるーって自覚、あんだもん。 でも、ホントなんだ。 「オレ、三橋のタマ、1番に打ちたい!」 にっか!と笑うと、パチパチとまた瞬きをして、三橋はぎゅっと口を結んだ。握 り拳がふるふる震えてる。 「負けない、よ!」 「おうっ!ホームラン、打ってやる!」 二人でぎゃはは、と笑った。 お前の心に入り込んで、普段は打てない大きな当たりを一発! オレはお前の、背番号1(ナンバーワン)!