人指し指(人を指しちゃだめ)




「あーもうなにやってんだよー!?」

 今日も、朝っぱらから大声でのツッコミ。日曜日だということも重なって、俺のイライラは頂点に達しかけている。
 そんな俺の気持ちを露知らず、いらだちを増長させるチビがひとり。

「だーはっはっは!ランボさんは〜よい子のヒットマンだもんねー!」
「どこがだーっ!?」

 のんびりできると思った日曜の朝、いきなりうるさいガキが遊べ遊べと手榴弾を投げつけてくるわ反動で自分が窓の外に落ちて泣くわ…最悪だ。
 慌てて追いかけて庭まできてみれば、案外ケロッとしている。
 俺は肩を落として、大げさなまでにため息をつく。多少気分が軽くなるかな、というのは淡い期待にすぎなかった。むしろ胃に重いものがのしかかってくる。

「ラーンボさんはー!すてきなヒットマンだもんね〜って聞いてるかおまえらー!」

 お前ら…?
 顔を上げると、ランボはうちの石塀の上でぴょんぴょん飛び跳ね、道路の方をを指差し騒ぎ立てていた。
 その前には、通行人の皆さんの姿が…って、

「なにやってんだよお前は――っ!!?」

 一般人に向かって騒いでいたランボを塀から引きずり下ろす。おそるおそる見ると、ご近所の皆さんはクスクス笑っていた。

「ごっ、ごめんなさい!ほらランボ、お前も謝れ!」

 頭を思いっきり下げ、俺はランボにも礼させようとする。ただでさえ毎日うるさい沢田家は、ご近所でも有名なのだ。…あまりいい方向性ではなく。

「やだーっ!オレっち悪くないー!」
「悪いよ!もっと静かにしろ!」
「ならツナが悪いんだもんね!このランボさんがー悪いわけないもんね!」

 ああ、頭悪くなりそう…。
 抱えたい頭はブンブン振ってなんとかする。俺は道路に向かって走り出そうとしたうるさいガキを、ぎゅっと羽交いじめにした。と言っても腕の自由がきかないように、後ろから抱きしめたような感じ。

「わあっ」

 持ち上げられた驚き声が泣き声に変わる前に、俺は早口でまくしたてる。

「もうやめろよ。今日は家に誰もいないんだし、そういうことしたって誰もかまってくれないぞ?」

 すると俺の腕の中のちびは、不思議そうに俺を見上げた。後ろから抱き上げたせいで、そのまま顔を上に向けた状態。逆さまのランボがこちらを見ている。

「誰もいないのに、ツナはいるぞ?」

 小さな口が、ぱくぱく動く。
 俺ははあっ、とため息をついた。

「俺は留守番!母さんに頼まれてんの!」
「ならなら、ランボさんだってママンにるすばん、頼まれたもんね!」

 なんで子どもって、他人に当てはまることが当然のように自分にも当てはまると思うのだろう。俺がする留守番とランボの言う留守番がイコールではないのに、気づいてくれないのだろう。
 俺はため息をついた。最近どんどん歳をとっている気がする。
 まともにランボの相手をしても無駄なように思えて、話題を変えた。

「いいから人を指差すなよ?」
「なんで〜」

 語尾をヘンな調子に上げてきた…。疲れのボルテージ、上昇。俺は腰に手を当てて、ちょっと怖い顔をしてみた。

「にーほーんーでーは!人を指差すのは失礼なんだよ!」

 ランボはきょとんと俺を見上げた。まんまるの目があまりにもまんまるで、続けて怒れなくなる。
 すい、とランボの手が持ち上がり、まっすぐこちらを指差した。

「え?」
「じゃあ、もうしないもんね」

 小さな子供は何かに納得したようにうんうん、と頷く。言葉とは裏腹に、俺を指差したまま。

「ツナにしか、しないもんね!」

 そして、にーっ、と笑った。
 なんだそれ。要は俺にだけ失礼なことをしてもいい、という判断なのか?子供の考えることは、まったくもって、わからない。

「なんなんだよもう…」

 拍子抜けしたような気分になって、ため息をついた。

 ――でも、ま、いいか。

 特別扱いというのは悪い気分はしない。この場合、悪く特別扱いだけれど。
 俺は苦笑すると、ランボに手を差し出した。ランボの小さな瞳がぱちくりと瞬く。

「中、入ろ。おやつ食べるんだろ?」
「おやつ!」

 瞬いた黒い瞳がキラキラ輝く。そんな姿に、つい小さな笑みがこぼれた。確かにいつもウザいけど、でも可愛い弟分であることも、確か。

「行こう、ランボ」
「うんっ!!」

 小さな小さな手を握って、俺は歩き出す。



 ランボはそんな綱吉の横顔を見上げて、楽しそうに笑った。




 ――ツナだけ、だもんね!


 小さな小さなこの子の、恋のベクトルが指すのは。










ランボさんはツナのことが大好きです!(何故か断言。いや、宣言?)
大好きだから気を引こうと一生懸命なランボさんが、大好きですv



次は、中指。