picnic.




 危機感が無いね。雲雀が言った。
 了平はそれを聞き、もっと雲雀らしい言い方をするなら「危機感が無いにもほどがあるね」だろうと何とはなしに思った。なぜそう思ったかはわからない――が、そんなキツい台詞を吐きながらも雲雀の表情は和らいでいるからだ、と思うことにした。
「なに」
「いや、なんでも」
 じっと見ていたら言われたので、正直に返す。雲雀はふぅん、とひとつ相槌を打ち、空を見上げた。イタリアに来てからあまり見ない仕草だなと感じたのは、普段は喉元を狙われないように気を配っているからだった。
 了平も倣って空に視線を上げる。芝生に覆われた丘をなぞるように下から風が吹き上げる。爽やかな青い風が自分達に当たってそのまま空に昇っていくようだった。
「平和だな」
「そうかもしれない」
「かもしれない、なのか?」
 むしろ、てっきり否定か嘲笑によく似た苦笑がくるかと思っていたので、了平は空から視線を雲雀に下げた。オフだというのに黒いスーツのままの雲雀は空にまっすぐ視線を当て、揺らぐ風も無かった。
「そう、君だって今、」
 雲雀は二人の間に横になる小さな彼の手をきゅ、と握りしめた。
「余裕なんて、ないくせに」
 了平は二人の間に寝転んだ彼の手を強く優しく掴んだまま、瞬いた。
 まじまじと見下ろし未だよく眠っていることを確かめて、うむ、と笑う。どっしりした笑い方は昔と同じようでいて、その実ところどころに痛みや哀しみをにじませていた。
「そうだな。ときどき、怖くなる」
 このまま目を開けないのではないだろうか。いつかのように、琥珀の双眸は閉じきったまま、ただ風に金糸のような髪がなびくだけ、になるのだとしたら。
 静かで優しい時間は過ぎるのが怖くて堪らない。だから戦いの中に身を置く方が楽だと多くの人間が言うのだろう。
 決して言わないけれど、この淡い青年はすべて理解しているのだ。だから雲雀も了平もやるせなく、こうやってただ彼の手を弄ぶだけ。
 雲雀はゴミでも入ったのか片目を閉じ、嫌そうに了平を見やった。
「そうじゃないでしょ」
「む?」
「全く鈍感だね」
「何!聞き捨てならんな!」
 頬を膨らませる了平に呆れたように雲雀は息を吐き、この子、と素っ気なく言った。
「綱吉とこうやっているのに、ドキドキしないわけ?」
「………おお!」
 そういうことかと納得した了平を見て嘆息し、雲雀はねえ綱吉、とすやすや眠る綱吉に声を掛けた。
 こうやっていると、少しだけ、昔に戻ったような気分になるのは不思議だ。だってかつての自分達は穏やかさとは程遠い関係だったというのに。
「綱吉」
 血と夜を駆ける獣が奏でる響きはひたすらに優しい。了平も綱吉に視線を落とし、どくりどくり言う綱吉の命をてのひらに感じながら、沢田、と言葉を風に乗せた。
 今でも変わらないのは彼の手はとても温かく、自分達をもどかしく穏やかならざる気持ちにさせてならない、ということ。
「うーん…?」
「!」
「!」
 ぴく、と綱吉の眉が動いたので、二人は慌ててそっぽを向いて、何でもないふりをした。












相互記念に<へろへろタップの小部屋>のへろへろタップ様に捧げさせて頂きます!リクは「了ツナヒバサンド(十年後)」でした。

まずは大変遅くなりまして申し訳ありません…!
それからかっこいいお兄さん、ということでしたのにかっこよくはない…ような…?←
今の本誌展開とちょっと絡めたらヘタレっぽい二人になってしまいました;
ちなみにpicnicはイタリア語でも同じでしたー。三人でイタリアの町を見下ろす丘の上でのんびりランチ後、という感じで。
どうぞお好きに処分してやって下さると幸いです。

相互ありがとうございました!これからもどうぞ宜しくお願いしますv







08/10/26