永久(とわ)にぶどう畑









「うっわー!」



ツナは叫んだ。声は前方から吹く風にさらわれて一面緑の景色に流れてゆく。晴れた空には一筋の雲があるけれど、太陽を隠すほどの面積ではない。キラキラした陽光が降り注ぐ。
ガタゴトと音を立てながら赤いかわいらしい車は畑の中を進む。天井が開けられ、助手席のツナは膝立ちで上半身を外に出していた。温かな風が心地良い。自然と深呼吸と笑顔。



「ボンゴレ、危ないですよ!」



長い手足で小さくなって運転しながら、ランボは注意した。普段の彼より幾分落ち着きを持って。いつもならオタオタしているのだが、二人きりの小旅行での浮かれ気分は隠せない。
それからまだ十五のランボは少しだけ、自分もやりたいなあと思っていたりして。



「だってすごいじゃんぶどう畑!」
「イタリアですよここ!当たり前ですって!」
「でもこんな広いの初めてだろ!?びっくり!」



ガタゴトに負けないように自然と大きな声で叫びあう。
田舎道は緑を切り開くように土色の直線をどこまでも伸ばす。傍らに咲く色とりどりの花、ぽつりぽつりと点在する赤茶色の屋根、風にひるがえる洗濯物、働く人たち。
イタリアの片田舎の景色を見る度ツナは嬉しく思う。何より守りたいのはこんなありふれた風景なのだ。
遠くで手を振る地元の人に、元気よくぶんぶん手を振り返して、ツナは座席に深く座った。



「楽しみだなあ、ねえ、ランボ」
「はい。ツナ」



珍しく名前で呼ばれ、ツナは驚いた後に苦笑した。本当なら「ボンゴレ」だって立派な自分だから、そろそろ慣れなくてはいけないのに。それなのに、やっぱりこの方が嬉しいのだから。
ランボはそれを知ってか知らずか歳に似合わず優しく笑んで、アクセルを踏んだ。
とたんにスピードを上げた小さな車に,ツナはうわ,と驚きの声を漏らす。ランボが初の給料で買った小さな中古車は、ちょっとしたことですぐ揺れる。荷物置き場と化した後部座席に積み上がったワインボトルやサンドイッチのバスケットが崩れそうになった。



「ちょ…ランボーっ!」
「もうすぐ、ワインが飲めますよ!」
「!」



実に楽しそうに言うランボに、ツナは二の句が告げなくなる。
座席にもたれて、ああどうしたって歳とると夢がなくなるよなあ、と考えた。



「そうだね…」



だから、口には出さないけれど、心の中で感謝して。



「せっかくの、デートだもんね」
「!!」



がっこん。
デートという単語に歳相応に驚いて、ランボはハンドルを妙な風に切ってしまいぶどう畑に突っ込みかけた。



「うわちょっランボっ!?」
「うわあああ!?」
「落ち着けぇぇっ!」
「はあ…はあ…」
「ああ…もう…!」
「……ぶっ」
「……ぷっ」







二人で顔を見合わせて、笑った。



このぶどう畑が、どこまでも続きますように。

そう、祈って。












1000hitのキリリクは「十年後ランツナ」でしたー!記念すべき1000hit、はるちゃんありがとうvv


二人はやっと手に入った短い休暇を片田舎で過ごすためのんびり小旅行中。初めての給料とか小さな中古車とか、大した贅沢はできないけれど、ささやかな日々を大切に。そんな感じで書かせて頂きました。
ランボさん免許持ってんの?とかリボーン先生の邪魔は入らなかったの?とか初任給で中古車が買えるのかなどはご想像にお任せします(笑)。ほら、マフィアってなんでもアリだから!


お持ち帰りははるちゃんのみお願いします。1000hit、本当にありがとうございました――!


07,10,10

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