雲雀日和
はたはた、とカーテンが揺れる。春風なのか初夏の涼風なのか判然としないような、けれど気持のいい風が応接室に吹き込んでいた。
扉の前でぼんやり突っ立っていたツナははっとすると、慌てて中に入り扉をそっと閉める。
それもそのはず、部屋の主は見事に就寝中であった。仕事用のデスクに書類の上から突っ伏して、よく寝ている。
風が彼の黒髪と。影を落とす睫を揺らした。青い空を背景に寝ている風紀委員長があまりにも絵になるもので、ツナは両手の親指と人差し指で四角いフレームを作り、その中に雲雀を入れてみる。やはりと言うか何と言うか、やっぱり絵になる。
またカーテンがぱたりと揺れて、ツナは本日二度目の「はっと」をすると、忍び足で窓に近寄った。こんない風が吹き込んでいてはカゼを引いてしまうかもしれない。カゼを引いた雲雀など想像できなかったが(サクラクラ病のときのようになるのだろうか)、彼だって人間なのだし。
窓際に立ってみると存外陽光はあたたかかった。これなら別にこのままでも大丈夫かも、とツナは身を引きそうになったが、せっかくここまで来たので今更止めるのも何故か気がひけた。誰かが責めるわけでもないのに、と思って苦笑する。
応接室の窓は大きく重いので、力を入れる必要があった。両手でサッシを掴み、スライドさせる。昔よりは力がついたツナでも少々苦戦した。
それでも何とか音を立てずに一番端の窓を閉め、次に雲雀のすぐ真後ろの窓に手をかける。
応接室からは当然のよういn並盛中と並盛町全体を見渡せ、おそらく一番眺めが良い。雲雀がここを風紀委員室にし(てしま)ったのにも合点がいく。彼は並盛が大好きだから。
――雲雀さんらしいや。
ふと視界を斜め四十五度上げると、そこにはぽつんと雲が浮いていた。なんだがかわいらしい、まるい雲。ツナは理科と聞くと頭を抱えたくなるので何ウンなのか何グモなのかさっぱりだったが、コッペパンのようなそれにはなんとはなしに魅かれた。手を伸ばせばすぐ届きそうな場所にあるのだ。
つい手を伸ばして――乗り出しすぎた身体が若干の浮遊感を得るのと、後から凄まじい勢いで引っ張られたのはほぼ同時だった。
「ふぎゃ!?」
ツナの軽い身体が宙を舞い、背中から床に叩きつけられる。痛みには慣れっこになりつつある身体も、さるがに衝撃は大きくツナはよたよたと身体を起こした。
顔を上げると、座ったままの雲雀の姿。半眼の瞳は眠りを妨げられたせいか不機嫌そうだ。
「何してるの」
「え、や、あの…」
「飛び降り自殺」
「ではないです!絶対!」
雲雀は胡散臭そうにツナをしげしげ眺めると、ふうんと気のない相槌を打って大きくのびをした。ふあ、欠伸が出て涙目になるのを見、ツナは目をまるくする。まあ、彼も人間だから欠伸くらいするか、と自分を納得させながら。
ツナは立ち上がるともう一度窓を閉めようと窓枠に手をかけた。横にスライドさせ、鍵をかける。
と、座ったままの雲雀に後ろから腰の辺りを抱きしめられた。
「え?」
「何?」
「いやいやいや、あの?」
一体何をしてるんですか、と言外に尋ねてみるも、雲雀はさも当然のように首を傾げてツナの背に顔を埋めた。
それからもごもごと何か言ってワイシャツに息が吹きかかったので、何ですか、と問うと、別に、ただ、ととても眠そうな声で返された。
「世の中の雲は全部君のものなんだから、そんなことしなくてよろしい」
眠そうなのにしっかりした声で注意を促され、ツナは「はあ」と首を傾げた。
終
2000hitを踏んだ蔵崎ヨノト様リクエストのヒバツナでしたー。蔵さん、遅くなってごめんな…!(土下座)
ヒバツナはこういうほのぼのちょい甘くらいが好みなのですが、どうでしょう。
ではでは、2000hitおめでとう&ありがとうでした☆
08,9,14