「あ、れ」 綱吉は小さく声を上げた。 「大丈夫ですかっ、十代目!」 「どうかしたのか?ツナ」 綱吉の目の先。そこには、一本の、身に覚えのない―― エピローグという名のプロローグ 「何だろコレ…」 「何だろって、見るからにビデオテープでしょ」 雲雀に言われ綱吉はうーんとうなる。 今日は…いや今日も、リボーンの勝手な思いつきによりボンゴレファミリーは召 集をかけられていた。ファミリーだけならまだしもディーノやフゥ太といった面 々まで勢揃いなため、ただでさえ狭い綱吉の部屋は一層狭い。 当然足の踏み場もないわけで。 誰かもしくは何かにつまづいた綱吉は棚にダイブし様々な物が吹っ飛んだ。 その中に、見覚えのない一本のビデオテープ。古い物なのか、シールに書かれた 文字が殆ど消えて見えなくなっている。 普通なら家の誰かが間違って置いてしまったのかとも思うところ。だがいかんせ んこの手のことに非常に敏感な綱吉は、テレビの上で不適な笑みを浮かべる家庭 教師をじとっと睨む。 「コレお前だろ、リボーン」 「まーな。ただ、ソレはもともとママンの所から失敬したヤツだからな」 「やっぱり…ってはあ!?母さん!?」 思いもよらぬ返答に、綱吉は眉をひそめてビデオテープを見つめる。 「面白そうだろ」 「まったく…勝手なことばっかしやがってお前は!」 胸を張るリボーンに綱吉は非難の声を上げるが、他の人々は至って興味津々だっ た。 「へえ、じゃあコレツナの小さい頃の映像入ってるかもしんないのか?うわー見 てー」 「ディーノさん…」 「クフ…まあどうせ今日もアルコバレーノの気まぐれで呼ばれたのでしょうから 、暇つぶしにはなるんじゃないですか?ああ、後でダビングを宜しくお願いしま す、千種」 「……」 綱吉はため息をついた。でもまあ、悪い話ではない。今まで自分の過去に興味を もってくれる人なんていなかったんだから。 「そういうことだ。早くセットしろ、ツナ」 「あーもう、わかったよ!」 そう言ってしぶしぶ立ち上がるのも、どこかドキドキして。 どんな映像が入っているのか?もしかしたら昔見てたアニメとか子ども番組とか かもしれない。母親の性格を考えると、そういうテープもきちんととってありそ うだ。 ただ。それにしてはこのテープは、きれいに手入れされているような印象を受け た。 ――テープに手入れも何もない気がするんだけどさ…。 後ろから向けられる好奇の視線に多少ビクつきつつも、綱吉はテレビの前を占領 していたちび達を避けつつそこにあぐらをかき、ビデオテープをセットした。 ガチャン、という音。テレビの電源を入れて、ビデオを再生する。 どうやら家庭で撮られたビデオのようだった。始めに出てきたのは、荒れた画像 。 「結構古い映像だな、沢田」 「そう…みたいですね」 了平の言葉に綱吉が呟くと、パッと画像の嵐が止んだ。ホームビデオの典型のよ うな少し傾いた映像。そこに映っていたのは… 「十代目、これ…並盛中ですかね?」 独り言のようにぽつりと獄寺が言った言葉に、綱吉は半信半疑で頷く。 校舎の何処とは断定出来ないが、歩いている中学生らしき人々の制服、建物が並 中のそれと酷似していた。ただ映像の古さや雰囲気から言って、綱吉達の時代の ものではない。 皆がくいいるように見つめる中、画面が大きく動いた。ビデオを撮影していた人 物が、自分の方にカメラを向けたのだった。 「あ…」 綱吉が思わず声を上げる。 そこにいたのは綱吉と同じくらいの年頃の少年。髪の色も瞳の色も、綱吉とよく 似ている。ただ彼の髪は短く刈られていた。 画面の中で少年はにっこり笑う。誰もが惹き付けられてしまうような、魅力的な 元気いっぱいの笑み。 『こんちわ!』 声も綱吉によく似ている…ここまでくればさすがの綱吉も感づいた。 『今日は〇〇年△△月××日。えーっと、俺は沢田家光!』 「…やっぱり」 綱吉は小さく息を吐く。どうやら父親の中学時代のビデオだったらしい。 「これが親方様ですか!」 目をキラキラさせるバジルを横目で見、綱吉は彼に軽く同情した。 親方様だか何だか知らないが、綱吉にとっては紛れもない馬鹿親父である。幼い 自分と母親を置き去りにしたことは今でも許し難い。 しかし、そんな父親に関して綱吉は何も知らない。知っていたのは世界中を飛び 回り、交通整理をしているとかいうあからさまな嘘のみ。今でさえ、わからない ことの方が多かった。それは綱吉の心に複雑な陰を落とす。正式に次期ボンゴレ 十代目となってしまった今だからこそ、なおさら。 そんな思いが、綱吉を画面に集中させる。 画面の中の幼い家光は、にこにこしたまま喋り出した。 『今日はビデオの調子見てるぞー。ちゃんと映ってるかー?』 手をぱたぱた振ってみせる仕草が綱吉より子どもっぽい。それに山本は笑う。 「ツナの父ちゃんツナに似てるな〜」 「えー…そう?」 嬉しいような悲しいような。うん、でもやっぱり、胸の奥底がむずむずするこの 感覚は。 幼い家光はビデオカメラを何か平らな場所に置いたようだ。塀か何かの上だろう か、家光の全身が映るようになった。そしていったん画面から姿を消す。きちん と撮れているか確認しているのだろう。 『よしっ!』 嬉しそうな声と共に、家光がまた画面に現れる。すると彼は右の方に視線をやり 、満面の笑顔で大きく両腕を振った。 『剛ー!こっちこっちー!』 「え?」 何処かで聞いたような名前に、綱吉は首を捻る。よくある名前だし、父親の知り 合いなど誰一人知らないはずだが。 すると、画面に一人の少年が現れた。 家光よりだいぶ背が高い。頭にはバンダナ、背には細長い袋を担いでいる。人懐 っこい笑顔は整っていて、男の綱吉から見てもカッコいい――のだが。 「や…山本…?」 綱吉は口をぱくぱくさせ、何とか空気を音にした。 画面に現れたのは山本そっくりな少年だったのである。 山本はというと、唖然としつつも納得したように頷いた。 「多分これ…うちの親父だ」 「ええ!?」 綱吉は驚きの声を上げる。 画面では二人が楽しそうに話している。 『わりぃなー家光。ビデオの調子見てもらっちまって』 『いいっていいって。俺ら親友じゃんか!』 そう言って笑い合う二人。その光景は綱吉と山本を彷彿とさせる。 「な、なんかムカつく…」 獄寺が複雑な面持ちで呟いた。他の面々も心中は同じであるらしく、微妙な表情 を浮かべている。 『んで、どうすんだコレ?ちゃんと撮れてるか見てみるか?』 カメラを指差し尋ねる家光に、若き日の山本父――山本剛は首を横に振る。 『どうせだからもうちょっと撮ろうぜ』 『えー?んじゃ剛にインタビューとかは?』 マイクを持つふりをする家光を見て、剛は声を立てて笑った。その仕草があまり にも山本に似ていて、綱吉は微笑む。 『ん、いーぜ』 『じゃあ…ずばり、剣道部のホープの将来の夢は!』 家光の言葉に剛は顎に手を当てて考え込むと、にっこり笑った。 『やっぱ親父の寿司屋を継ぐだろなー』 『へ〜。ちゃんと考えてんだな』 妙に感心する家光。綱吉からすればどこがちゃんとしているのか教えてほしかっ たが、自分が「山本」に同じことを聞かれたらやはり父親と同じことを言ってい ただろう。そう考えるとなんだかおかしかった。 『家光の夢は?』 今度は剛がマイクを持つふりをした拳を家光に向ける。家光はきょとんとすると 、大きく胸を張って答えた。 『もちろん!マフィアに決まってるじゃん!』 ……。 一同沈黙の後。 「はあーっ!?」 テレビの前で綱吉は絶叫した。 何言ってんだ親父ってかこの頃からマフィア!?ってか山本のお父さんの前でそう いうこと言うなよってか、え!?は!?…と綱吉は叫びかけたが、言いたいことが多 すぎて結局固まるのみ。 テレビの中の家光はそんな綱吉の思いを知る由もなく、誇らしげにビデオに指を びっ!と突きつける。 『俺は絶対に立派なマフィアになる!なってやるからなっ!』 まるで少年誌の主人公のようなセリフに綱吉は頭を抱える。 そんな綱吉とは対照的に、いつの間にか綱吉の横に陣取っている獄寺は、バジル同 様目を輝かせた。 「さすが十代目のお父様!志の高さに感服っす!」 「しなくていい!しなくていいから!」 綱吉は勢いよくツッコむと、父親を睨みつける。 やっぱり馬鹿親父は馬鹿親父だ…そう思いながら。 しかし剛は驚くことも引くこともなく、 『そっかー。まあ頑張れよ』 『おう!』 「えええ納得しちゃうの!?」 さすが山本父と言うべきか。天然なのは父子そろってらしい。 『じゃあさ、家光』 剛が、山本が綱吉にするのと同じように、家光の肩に手をまわす。 『マフィアになったら俺んトコに嫁に来ねー?』 ……。 一同再度沈黙の後。 「は?」 綱吉は顔をしかめてテレビを凝視する。何かの冗談だろうか? 『ウチに来れば寿司食べ放題だぜ?』 『うわそれいいな!うん、行く行く!』 家光も大して驚いていないようだし、やっぱり何かの冗談―― 『果てろ剛ーっ!』 雄叫びと共に、突然別の少年が画面に割り込んできた。 跳ねた髪、眉間によった皺、そしてこの決まり文句。獄寺隼人そっくりだ。 しかしその整った顔と黒髪は、別の誰かを思い起こさせる。 『何だよシャマル〜』 剛がつかみかかってきた少年を受け流しつつ言った言葉に、綱吉は目をひんむく 。 「しゃっ…シャマル!?これが!?」 そう言われてみれば、確かに似ている。だが現在の彼よりだいぶ短気なようだ。 シャマルらしき彼は剛の胸ぐらをひっつかむと凄まじい剣幕で怒鳴り散らす。 『てめーいい加減コイツに馴れ馴れしくすんなって言ってんだろーが!お前もお 前だ家光!馴れ合うんじゃねー!』 『え?だって…』 『だってもクソもあるか!』 今度は家光に怒りの矛先が向く。ぎゃんぎゃん騒ぐその姿は、やはり獄寺に酷似 している。 ――シャマルってこんなタイプだったんだ…。 綱吉は妙に感慨深げに思った。 画面の中では剛がシャマルを振り払い、器用に家光とシャマルの間に入って再度 家光の肩に手をまわしていた。その顔に浮かぶのは笑顔だが、どこか陰がある。 『いーじゃねーか別に。俺、本気で家光のこと嫁に欲しいし』 『なっ…!』 「えっ…?」 シャマルが絶句するのと綱吉が驚くのはほぼ同時だった。 『それに――』 剛は笑う。ただしそれはシャマルを完全に見下した笑み。 『女好きのお前には、関係ない話だよなー?』 『…っ』 シャマルがうつ向く。握った拳がかすかに震えていた。 ゆっくり顔を上げた彼は、敵意の満ちた目で剛を睨みつける。 『貴様…』 『あっ!』 シャマルの言葉は家光が突然上げた声に中断された。 キョトンとした顔の二人を後目に、家光は剛の腕をすり抜け嬉しそうに駆けてい き、画面から消えてしまった。 家光が走っていった方向を見た剛とシャマルの顔がみるみるうちに青くなる。 そして同時に、 『『雲雀…っ!』』 そう叫んで、血相抱えて走っていってしまった。 ブチッ。リボーンがビデオを止める。 「ここまでだ」 「ええっ!ちょ、ま、え!?」 一気に大混乱が流れ込んできた綱吉は言葉になっていない声をただ上げるのみ。 「気になるだろ、続き」 「当たり前だろ!?なに止めてんだよ!」 胸を張って言うリボーンに、ツナは文句をぶつける。しかしリボーンは何くわぬ 顔でリモコンを帽子の中に入れて被ると、テレビの前に仁王立ちした。 「今日お前達を呼んだのは他でもねえ。ファミリー内の親睦を深めるという名目 のもと、ツナの親父、即ち沢田家光の若い頃を覗いてみよう!という企画な訳だ 」 「ちょっと待てえぇ!てか名目って言っちゃってんじゃんか!」 「別にどっちでもいいんだけどな。作者の趣味だ」 綱吉はがっくり肩を落とす。この赤ん坊には何を言っても無駄…この一年ほどで それはよくわかった。 リボーンは綱吉を無視すると話を続ける。 「それで、だ。昔のビデオを見るのもいいが、それだと情報が限られちまうから な。ボンゴレの最先端技術を駆使したこの機械を使う」 パチン、とリボーンが指を鳴らすと、部屋のドアが開いた。そこに現れたのは、 不思議な機械に乗った小男。ジャンニーニだった。 彼は一同に向かって礼儀正しく頭を下げる。 「お久しぶりです皆さん。…おや、ボンゴレ十代目。どうしました?」 「ああ…俺はほっといていいよ…」 暗い空気を纏い力なく手を振る綱吉を少し疑問に思いつつも、ジャンニーニは嬉 しそうにテレビに近寄った。 「今回持って参りましたのはボンゴレが総力を上げて作りました最高傑作!『過 去まる見えテレビ』でございます!」 そう言ってテレビをコンコン、と叩く。するとテレビが一瞬で分解・再構築され 、先程のテレビの五倍はある大型の画面が出現した。 「このテレビは一見ただのテレビですが、実は好きな時代・場所の過去の映像を 見ることが出来るのです!試作の段階では時代と場所しか設定出来ませんでした が、この度親方様の過去を暴く!というキャッチフレーズのもと制作チーム一同 が寝る間も惜しんで努力した結果、見事!人物や人間関係を対象にした編集を可 能にしたのであります!」 ――見た目から既にただのテレビじゃないよ…大体何に力いれてるんだボンゴレ 企画開発部!ってかちゃんと元に戻るんだろうなうちのテレビ! 綱吉は荒んだ心で思ったが、疲れるだけなので口には出さなかった。 リボーンは口元ににやりと笑みを浮かべ、部屋の中の面々を眺める。 綱吉が続きを見たがるのは父親に原因があるが、他のメンバーの目的は明らかに 違った。 山本そっくりの剛、獄寺そっくりのシャマル、そして最後に呟かれた「雲雀」の 名。またどうやら剛もシャマルも、家光に相当執着しているらしい…となれば、 見ないわけにはいかない。親の世代で自分達と同じようなことが起きている可能 性は十分ある。もしかしたらそれが、これからも続く自分達の綱吉を巡る争いに 何か影響を及ぼすかもしれない――となれば。 彼等は半ば血走った目で綱吉を見、誓う。 絶対、手に入れてやる!と。 「じゃー見るぞ。いじけてないでとっとと起きろ、ツナ」 「ふげっ!?わ、わかったよ…っ」 リボーンの容赦ない蹴りが綱吉のみずおちにクリティカルヒット。バックで起き ていることを何も知らない綱吉は、涙目になりつつテレビに向きなおる。 ジャンニーニがリモコンを操作し、テレビ――いや、過去まる見えテレビの電源 を入れた。素早くボタンを押すと機械特有の起動音が鳴り、画面がつく。 「ではごゆっくり〜」 ジャンニーニが部屋を出て行った。 皆がじっと見つめる中―― 沢田家光の少年時代が、幕を開けた。 続く すみません続き物です!更にかなりねつ造設定な上にオリキャラばかすか出てくるので、苦手な方は見なかったことにしてあげて下さい…。 基本的に私は熱血おバカ主人公大好きな人なので、家光パパンもこんな感じならアリじゃない!?とか何か勘違いしつつ書いています(笑) はじめは基本ギャグで、途中からシリアスも混ぜていきたいなあと考えています。読んで頂きありがとうございましたー。