口封じ

 あ。


 声を上げそうになって、けれど何も言えなかった。確かに音を発したはずだったのに、喉の奥がぎゅっと絞られて、息の通り道を塞がれてしまったみたいで。それで、声は三橋の頭の中に消え失せてしまった。
 目の前の少年は此方をじっと見つめている。睨んでいる、ようにも見える。三橋にはそれが睨んでいるのではないとわかっていた。
 彼が三橋を視界に捕らえて十数秒後、口角がゆらりと上がった。目の光はそのままで、獲物を照準に入れた肉食獣の如く今にも飛びかかってきそうだった。


 じり。


 三橋は全身の筋肉を硬くした。逃げられない。その言葉だけが浮かんだ。
 三橋。田島が名を呼ぶ。みはし――普段と何も変わらないその声音が寧ろ恐ろしく、三橋は笑えなかった。
 田島は軽やかな身のこなしでその場に落ちている様々なものを飛び越えて近寄ってきた。
 見たんだ。問いではなく、断定的に発された言葉に三橋は唇を歪める。田島の顔が眼前に迫って、まあるい瞳を見開いた三橋を覗き込んだ。
 そして何も言わない。何もしない。永続的に時間が流れるのが怖くて、三橋はとうとう、うん、と肯いた。そうでないと様々なものが壊れてしまいそうだったから。
 すると突然田島の手がぬっと伸びて、三橋の両頬を包み、くちびるがくちびるに、噛み付くように触れた。他人の温度がぶつかってきて、頭が真っ白になる。これは何なんだろう?と三橋が驚いていると、田島の顔はゆっくり離れた。
 口封じ。田島は三橋の顔を間近で覗き込んで、笑った。
 くち、ふう、じ?幼子のようにたどたどしくオウム返しすると、少年は大きく肯いて、また三橋に噛み付いた。






 言うなよしゃべるなよ教えるなよ。  (思っている事知っている事気付いてしまった事!)





「これ、くちふうじだから、な!」











 ブログで「この記事を見た方にリク権差し上げます」って書いたら蔵さんからリクがきました(笑)。
 それを口封じリクと名付けていたので、口封じをテーマに書いてみましたがわけわからん話しになっちゃいましたね…反省。

 蔵さん、こんなんでよければもらってやってくださーい^^




08,3,2

戻る