見下ろすと、なめらかな白い肌が目に入る。それを彩るような蜂蜜色の髪がふわりと風に吹かれて、揺れる。
そっと手を下ろした肩は細くて――肩だけじゃない。首も腕も脚も、皆細い――力を入れたら壊れそうで。
す、と艶やかな瞳に見上げられる。長い睫に縁取られた零れ落ちそうなほど大きな琥珀色の瞳が花井を映しこんで、三橋は微笑んだ。春の花が一斉に咲き誇ったようにあたたかい色が広がる。
――はない、くん。
小ぶりの唇が小さく自分の名をかたちどって、花井はそれを封じるようにそれに自分の唇を重ねた。
――ん…。
鼻にかかった、脳をじりじり侵す甘い声。もっと聞いていたくて、心の中で謝りながら細い肩を抱きしめる。
やっと開放すると、三橋は肩で息をして、潤んだ瞳をふらふら彷徨わせた。頬が赤く染まって、ああ恥ずかしいんだと花井に気づかせる。
――みはし。
ゆっくり優しい声で呼ぶと、上目遣いで一生懸命花井を見上げ、三橋は遠慮がちに口を開く。
――い、いい、よ…?
――…ッ!
思わず抱きとめて、そのまま三橋を押し倒し…
…は?
「うっひゃあああ!?」
大絶叫と共に飛び起きる。
頬から額から汗が大量に吹き出し、心臓が破裂せんばかりに大きく鳴っていた。
辺りを見回す。薄暗い部屋でベッドの上。そう、ここは花井の自室だ。
「な…な…」
わなわな震えながら今見た――正真正銘の夢を反芻して花井は頭を抱えた。
自分は三橋に何をしようとした?いつも阿部や田島がやっていることと大差ないではないか。
まず彼らと比べて落ち込み、徐々に自分の夢の浅ましさに顔を赤くする。
(みっ…三橋はうちの投手で、仲間で…男、で!)
だから今のは絶対的におかしい。おかしいはずなのに、どうして自分はこんなに胸
を高鳴らせているのだろう?アレか、そんなに嫌だったのか?
花井は寝転んで、ため息を中空に吐き出す。
三橋は以前は気にくわないところもあった。すぐ泣くしキョドるし、何より背が高
い花井を見ると問答無用で逃げ出したりした。
けれど、その投球に対するひたむきさに少しずつ惹かれていたのも事実――でえっ?
(ひっ、惹かれてたあ!?そそそんな馬鹿な…)
花井は慌てて布団をかぶって縮こまって。野球部の面々には絶対見せられない――
というか、誰にも見せられない姿である。
(ほら、きっとあれだ!野球ばっかりやって女の子と会う機会なんてないから、その
…欲求不満とかだ!)
それはそれで嫌だったが、まさか三橋とあんなことをするのを望んでいるだなんて
認めなくなかった。ただ見落としている点といえば、「女の子がいなくて欲求不満
なら、夢にでるのは篠岡やモモカンなのではないか?」という事実である。
もう一度寝よう。花井はそう思って瞼を閉じ、しかし思い立ったように開いて枕も
との時計代わりの携帯へ手を伸ばした。まだ夜中二時で、花井は中途半端な欠伸を
しながらメール画面を開く。
送り主は、「三橋廉」。
寝転んだまま、ぼんやりした頭でカチカチとメールを作る。
『ごめん』
たった一文をしばし眺めて。
「…あーぁっ!」
一体何をやっているんだ自分は。いや、わかってる。これは全部自分が満足するためにし
ていることに過ぎない。
携帯を放り投げて、ふて寝するように頭からすっぽり布団をかぶった。こんな嫌な――そうだ、嫌だ、嫌なんだ――夢、寝ればすぐに忘れるに違いない。
ピ。
「………?」
暗闇の中で、電子音が異常に大きく聞こえた。
そっと起きる。きょろきょろ周辺を見回し、ベッドの隅に引っかかった携帯を見つけた。どうやら本当に放り投げていたらしい。
(まさか、な…!)
引きつった顔で恐る恐る手を伸ばす。
携帯のディスプレイにしっかり表示されていたのは。
『メール送信完了』
「――っ!!」
深夜の花井家に再び大絶叫が響き渡った。
きっと三橋は誤解する。
朝練では脅えるだろうし、キョドるだろうし。
もしかしたら、泣くかもしれない。
でも、もし。どうしたのって、聞いてくれたなら。
…どーもしねーよって、笑ってやろう。
いやでも、願わくは!
白ヤギさんたら読まずに食べて!
終
<村人>のA様に押し付けさせて頂きます。リクは「ムッツリ花井でハナミハ」でした。
まずこれのどこがムッツリなんだ、というところが問題ですよね!え、ほんと、これ何…?むしろ花井キャプ、ツンデレ…?(それも違うんでないの)
とりあえずメールを送ってしまって大慌てな花井キャプが書きたかったのです…。すみません空回りしましたーorz
お待たせしたのにこんなんですみません!どうぞ熨斗つけて返してやるぜな心意気で構いませんので…!
ではではリクありがとうございましたーvこれからもどうぞよろしくお願いします!
08,4,18
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