いらない、あなた以外は
もしこの世に野球がなかったら。ときどき田島はそう思う。
もし野球がなかったら、たぶん自分は相当の役立たずだったんじゃないだろうか。今までほめられたことといえば野球のことばかりだし、それでいいと思ってた。今だって同じだ。友達だって野球を通じて見つけたし、話すことといえば野球のことなわけだし。
自分の世の中は常に野球中心で、他のものだって大事だから妥当なくらい大事にしているつもりなんだけど、でもやっぱり野球がなくちゃ生きていけない。
けれど自分にとって一番大切な野球がなかったらなんて、中学時代は考えもしなかった。あの頃野球は確かに大切だったけれど、「見えて」はいなかったのかなと思う。もっと正しく言うならちゃんと向き合っていなかった。
三橋のようには。
何よりも投げることを優先して。それは他に手に入るどんな物事よりもあの子にとっては大切だ。阿部なんかは投球中毒だ、なんて呆れたりするけれど、あれは中毒というより夢中という感じ。
そう、まるで恋しているみたいな。
野球がなかったら。三橋には会えなかった。
あの、田島からすればスゴいくせにいつもビクビクオドオドしている三橋には野球があったからこそ会えた。そうだ、だって三橋にとっては野球がすべてだから。
だから同じように野球がタイセツでダイジでダイスキな田島からすれば、素晴らしい話に見えていて当たり前なのに。
ときどき、田島は思う。
他のどんなものより三橋の心を身体を独占している野球、が、
(…なあ、おまえ、)
ちょっとさ、邪魔だよ、お前。
ああもし野球のない世界に生まれていたら、な!
きっと、三橋廉は、そこに存在してないだろうけど。
07,10,12
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