サンタクロースの正体は?






滅多に行かない9組へ来たら、三橋が熟睡中だった。



「くー…」



男にしてはやたら可愛い寝息を立てて。
他の奴らはどうしたのかと辺りを見回すが姿は見えない。第一田島がいれば五月蝿くて気づかないはずがない。田島が静かなのはそれこそ寝ているときくらいだ。



(困った…のか?)



頭をかきながら三橋を見降ろして考える。これは自分自身への問いだ。
なんとなく寄ってみただけなので実は用があるわけでもない。いるのが三橋で、それも寝ているなんて状態でも特に困りごとはない。ただ、なんとなく手持ち無沙汰とでもいうか。
周りでは他の生徒たちが寝ていたり話したり、普通の昼休みを過ごしている。そういえば浜田も9組のはずだが姿がない。



(どうしたもんか…)



思った途端あくびが漏れた。眠くはないけれど、目の前の三橋がとても幸せそうに寝ているのでつられてしまう。
もしこれが田島や泉なら、そばで寝ることだって許されるんだろう。
同じクラスだからなどという単純な理由ではなく、それが意外だと思われない数々の理由を彼らは持っている。
反面自分は、背が高いせいもあるがどうもまだ怖がられてしまう。三橋のような性格をしていたら当然だが。



(…つか、三橋って案外背ぇ低いんだよな)



野球部のちっこいの、といえば田島のイメージだが、三橋も大して変わらない。実は体重は田島の方が重いらしい。
そもそもその性格からか、三橋はいつも縮こまっていて――マウンドの上は例外だが――小さく、見える。



(なんか)



さらえそうだ。



「…は!?」



考えたことに自分で驚いて頭を抱えた。何を考えているんだ。
机に突っ伏して幸せそうな三橋は花井のそんな状況を露知らず、むにゃむにゃと言葉にならない寝言を呟く。女の子というよりはネコとかヒヨコとか、そういうイメージ。
罪悪感と、自分で振りまく微妙な空気を再度感じて、花井はため息をついた。周りの喧騒がどこか痛い。
ポケットに手を入れる。指先に当たったビニールの感触に、ああまだ残っていた、と安堵する。
三橋なので多分起きないと思うが、一応音を立てないようにそろりそろりとアメをポケットから取り出し、起きたときに落としたり、なくしたりしないように、筆箱に寄り添わせて置いた。
あとはただこの小さなアメが、うちの四番や目つき鋭いソバカス少年や応援団長に、見つかりませんように。




…勝手な罪悪感と手持ち無沙汰を解消するためにアメをあげて、それで逆に心配が増えるって、どうなんだろう。







07,10,18

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