何て言ったらいいのかわかんないけど、多分あれだよ。第一印象から決めてました、ってやつ。


春、桜の季節。一つの終わりを迎えたのは少し前で、これから始まりを迎える時期。まだまだ中学校の感覚が濃く残る、高校生活一日目。
親同士積もる話でもあるのか話し込んでいる母さんを待ちながら、大きな欠伸を一つ。入学式は終わり、あとは帰るだけだというのに。先に帰ってしまおうかと人の多い校門に目を向けた時、色素の薄い茶色が目に入った。ふわふわ、という表現がよく似合うその子に心拍数は増えるばかりで。

(あれ?今の、何?)

何か衝撃を受けたみたいに動かなくなった体。例えるならそう、丸で矢が刺さったみたいだった。
数日後、知り合いになったその子は、とても臆病で、でも優しい子だってわかった。友達にだってなれたし、それはよかったんだけど。

(俺、恋したのか)

会って実感した、あの衝撃の正体を。でもね、悩みだってある。だってその子

(男に恋だなんて)

何故初めて見た時に気付かなかったんだろうか。あの時彼は学ランを着ていたはずなのに。抜けている自分をちょっと恨んだ。
それでもきっと、あの時事実が判明してもこれがさめることなんてなかったんだと思う。だって事実を知った今でも好きなまま、さめるどころかだんだんと大きくなっていくんだ。俺にとっては小さな悩みだと思ってた。


(あ、にきび…)

気にしていたはずなのに出来てしまったそれに溜息。どうせなら思われニキビだったらよかったのに、と見当はずれなことを考えながらそっとそれに触れる。あまり触っちゃいけないことはわかってるんだけど、気になっちゃうんだよね。
告白しようと決めて何カ月がたっただろう。雨だとかいろんなことを言い訳にして、くり返しくり返し延期。もちろん今日も例外ではなくて。

(今日はやめとこっと)

せめてこれが治るまでは、とまた延期。

「あ、三橋」

部活へ行く途中、偶然彼を見かけた。周りには誰もいなくて、チャンスだと思ったらいてもたってもいられなくて。気がついたら声をかけていた。

「うお?」

ニキビもなおって、今日は天気だっていい。決心をして、昨日の夜恥ずかしいと思いながらも練習もした。したはずなのに。

(言え、言うんだ)

何でだろうね、いつも君の前では素直に言葉が出てこないんだ。
あの春が過ぎ、もうすぐ風が南から来る季節になるというのに。俺は一歩を踏み出せないままだなんて。

「今日も頑張ろうね」

ふわり、吹く風に決心がさらわれた気がして。気がつけば違う言葉を発していた。
募っていく想いは、少しも削れやしないのに。

「ごめんね、急に呼び出して」

練習も終り着替えも済んだ後、彼をこっそり呼び出した。もう暗い時間。校舎裏。これで桜が待っていれば漫画に出てきそうなシチュエーションなのに、そう思ったけど、それをできなくしたのは明らかにためらっていた自分のせいだ。

「いい、よー」

気にしないで、と笑う彼に心臓が跳ねる。周りが静かすぎて、バクバク言ってる心臓の音が彼に聞かれてしまいそうで。もちろん、実際そんなことはないんだけど。

(今日こそ)

言うんだ、と決めたけど目の前には彼。当然のことなのに緊張して震えだす手。あぁ、情けないな俺。

「あの、ね…」

ふと気づいたら決心をさらう風はやんでいて。今しかない、って。
深呼吸して、しっかり君を見て。何でだろう、さっきまでの緊張がウソみたいに解けて、今はもう言葉が自然に出てくる。

「出会った時から、一目見た時から好きです」



恋に堕ちた



END


暗い中、それでも君の顔ははっきり見えた。
あの時人ごみの中、君を見つけた時のように。


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黒白恋哀の蒼井様から頂きました。空月のリクは「ミズミハ」でした。

蒼井様がお書きになる文章が大好きなので、頂けて本当に嬉しいです…!
とても優しくて柔らかくて、それでいて爽やかで…空月が思うミズミハの要素がぜんぶ詰まっている気がします。
初恋だったのねフミキ…!と応援してしましました^^

蒼井様ありがとうございました!これからもどうぞ宜しくお願いします!







08/11/04