保健室の秘め事
お昼休み、騒がしい校舎の中を歩き
そこだけ、まるで別世界のようにしんと静まった廊下の一角
そこにある扉を、ドキトキとする心臓を抑えるように
1回深く息を吸ってから
できるだけ音を立てないように、そーっと開いた。
部屋の中は、廊下と同じようにとても静かで
いると思っていた先生は、お昼を食べに行ってしまったのだろうか
部屋の中には誰もいないようだった。
だが、そこに人がいることを、俺は知っているから、
部屋の1番奥、閉められているカーテンを開き、
するりと中に滑り込む。
そうして、再び閉めてしまった。
中に置かれたベッドに、
授業中に見かけるときよりもやや苦しそうな顔で
浅く呼吸をしながら眠っている人物。
近くにあった椅子に腰かけて
その、しっとりと汗ばんだ額に、そっと手を当て
やっぱりまだ熱いな、なんて考えていれば
閉じられていた目蓋がゆるゆると持ち上がり
溶けてしまいそうに潤んでいる蜂蜜色の瞳と目があった。
「…い、ずみ、くん?」
掠れてしまった声が、それでも自分の名を呼んでくれたことに
胸の辺りが、ほんのりと温かくなった。
だが、熱に浮かされていて、焦点の定まらない瞳と
赤く染まった頬には心を痛める。
「大丈夫か?」
少々顔を歪めて、聞いた。
三橋は、こくりと控えめに頷き
「ごめ、んね?」と続けた。
「何で三橋が謝るんだ?」
問えば「心配、させ、ちゃって。」と答えて、
へにゃりと眉を下げた。
「泉、くん、悲しそう、な、顔、させ、ちゃって。」
あぁ、俺の大切な人は、
自分が苦しいときでも、俺の事を思ってくれる。
そのことをとてもうれしく思ってしまったが、
今それに喜ぶのは、とても場違いなことだとわかっている。
なのでそれを隠すように
「じゃぁ風邪なんかひくなよ。大好きな野球もできなくなるんだぜ。」
言ってやれば、見えない獣耳がしゅんと下がったのがわかった。
「三橋が苦しんでんのは俺も辛いし、ホントは俺が代わってやりてーんだけど
それはできねーんだから、せめて心配くらいはさせてくれよ。」
言えば、熱で赤らんでいるのとは、違う風に頬を真っ赤にして
もぞもぞと布団を引っ張り上げると
顔までかぶって隠れてしまう。
そのかわいらしい反応に気をよくした俺は
布団から僅かに出ている瞳と同じ色の
今日は熱のためか、少々湿っている柔らかい髪を撫でた。
愛おしい者に対して、自然と優しくなる動作
三橋はかぶっていた布団から、瞳の辺りまで覗かせて
「泉く、ん。手冷た、くて、気持ち、い。」
猫のように細められた瞳、その顔は
最初よりも、僅かに気分が良さそうに見えた。
それに安心してふぅっと息を吐き出すと
廊下の方から休み時間の終わりを告げるチャイムの音が聞こえた。
今日のように病人が寝ていることもある保健室は
チャイムの音が切ってあるのだ。
「あ、いず、みく、ん…チャイム、鳴っちゃった、よ?」
気持ちよさそうにしていた三橋の顔は、
一瞬で泣き出しそうな顔になり
「もう行か、なく、ちゃ。」
行かないで欲しいと全身で訴えているのがわかるのに
全く逆のことを口にする。
それに思わず声を立てて笑えば
本人は自分が全身で訴えているということを全くわかってないようで
目をパチパチとさせながら
「泉、くん?どうした、の??」
なんて聞いてくる。
気づかないうちにも自分を求めてくれる事への愛おしさに
授業なんてサボってしまって
ずっと側にいてやりたいとおもうが
確か5時間目の授業は英語だ。
サボっても大丈夫なほど、俺の成績に余裕はないし
後でノートを借りて写せばいいと考えても
借りられそうな相手が田島と浜田じゃかなり危うい
…というかどうせ2人はノートなんてとらないだろう。
いつもギリギリの成績の三橋にも、ノートくらいは写させないといけない。
やはり、授業をサボるわけにはいかないようだ。
「ごめんな、三橋。5時間目終わったらまた来っから。」
「…う、ん。授業、がんば、って、ね。」
悲しそうな顔で見送られれば、俺は後ろ髪を引かれる思いに駆られ
思いついて再び三橋に近寄る。
覆い被さる程に顔を近づければ、真っ赤になって
「か、ぜ移っちゃう、よ。」
と言うが気にせずに
湿った額にちゅっと音を立てて唇を寄せる。
(塩辛いはずの汗を甘いと感じてしまったのは、惚れた弱みというやつだろうか)
真っ赤になって口をぱくぱくさせる三橋に微笑むと
「風邪が治るおまじないな!」
言って、逃げるように保健室を後にした。
そのままクラスのある階の廊下まで走ってきたが
どうも走ったせいではなく顔が熱を持っているのを感じる。
「俺ってかっこわりぃ…。」
呟いてそのまま廊下に腰を下ろした。
このままだと授業の始まりを告げるチャイムが鳴ってしまうが
自らの熱を冷まさないままでは教室には戻れない。
泉は1度深く息を吸うと
そっと目を閉じて
先ほどまで共にいた、愛しい人の顔を思い浮かべた。
終
相互記念に『ソラトクラ』空月あおい様へ捧げます!
リクは『イズミハで、どちらかが風邪をひいた設定』でしたが
いかがでしょうか。
田島と浜ちゃんを(当たり前のように9組のみ)登場させる予定でしたが
みごとに2人きりになってしまいました。
まったく書いていませんが、一応両片思いで
泉は気づいているけど、三橋は無自覚ってことになってます。
(細かいな)
私の中で泉くんのイメージが最近一人歩きしてるので
こんな感じになってしまいました。
駄文ですがよろしければもらってください。
24時間返品・苦情受付中です。
相互ありがとうございました!
--------------------------------------------------------
「Fragile moonlit night」の月城桃華様から頂きました!空月のリクは上記して頂いた通り、「イズミハでどちらかが風邪を引いている」でした。
泉が年相応の男の子っぽくて大好きです〜vこのくらい原作の彼はやってくれるんじゃないの!?と思ってしまう(笑)
泉が三橋を好きで、三橋が泉を好きで。両片想いっていじらしいしときどきちょっと切ないけれど、こんな可愛い二人の関係なら両片想いもいいなあ…vと感じましたっ!
月城様、どうもありがとうございました!これからもどうぞよろしくお願い致します!
08,4,18
戻る