彼とキスをするときの話




 そういう雰囲気っていうのはそういうときになればわかるんだろう。昔、困ったような恥ずかしそうな顔で言われたのをふと、思い出した。あれは…ハマちゃんだ。
 大好きな大好きな彼は、たぶんすごく困ったんだろうけれど、まだ小さかった俺に自分の知りうる最高の知識でもって教えようとしてくれた。レンアイ、というものを。
 時が来ればわかる。じゃあ何もしないで待っていればいいのかなと言った俺に、優しいお兄ちゃんは頷き――かけて、首をひねった。


――それでもいいと思うんだけど…。
――?
――…いや、三橋は信じて待てるもんな。大丈夫だよ。
――わあっ…!


 歓声を上げる俺を目を細めて見つめ、ハマちゃんはうんうん頷いた。





  ――見つかるといいなあ。三橋を大切にしてくれるひと。












「三橋、どうかしたか?」


 目の前の黒い瞳にのぞき込まれ尋ねられる。三橋はぱちくりと目を瞬かせ、破顔した。


「うう、ん」


 小さく首を振ると、泉はそうか?と眉間にしわを寄せたが、それでも笑顔の三橋に安堵したのか微笑んで、そっとキスした。唇に唇が触れて、彼の温度が伝わる。


 ああ、これが、そういう雰囲気。


 三橋は泉のキスが好きだ。他の人としたことがないからよくわからないけれど、彼とするキスはとても特別で、自分だけのもの。
 他の人としたことがない、といえば、泉も三橋とが初めてだと言っていた。それはいわゆるファーストキス、というもので。
 だから泉には三橋だけで、三橋には泉だけで。


「ぷはっ…」


 長いキスはうれしいけれどまだ少し苦手。
 顔を覗き込んでくる泉は、黒い大きな目をしている。本当に吸いこまれそうだと前に言ったら、それはお前の目の方だよと笑われた。
 双黒がふと細められた。心配してくれているんだ、と三橋は気づく。


「大丈夫か?」


 彼に返すのは決まって笑顔。こちらの嬉しさを伝えるには一番いいのだと、誰かが教えてくれた。ハマちゃんだったかな。
 ふにゃりと泉に向って笑んでみせて。


「う、ん。きもち、いい、よ」


 がく。
 そう音が出そうなくらい勢いよく泉は頭を垂れた。


「うお、いずみ、くんっ?」
「あー…や、いーんだけど…」


どうかしたのかと顔を見ようとする三橋を手で遮りつつ、泉は顔の火照りをとる。
そりゃあ世間的には付き合っているわけだから、この程度のことでいちいち反応するのも馬鹿馬鹿しいのだが。


 ――今のは、ねーよな。


 三橋が恋愛事に疎いのはよくわかっていたつもりだったが、いざ素でこんなことを言われては正直理性が持たないかもしれない。


 ――つか、いつまで持たせればいいんだっけ?理性…。


 付き合い始めて三か月と少し。世間一般的にはどこまで進んでいるべきなんだろう。キス止まり、は健全な方だろうか?それとも単に度胸がないだけと言われてしまうか?
 泉としては三橋を怖がらせたくないのでまだ我慢できた。で、三橋も知識なさそうだし、別に急ぐことなんてないと思う。
 どうせ、そのときは来てしまうのだから。
 来るのなら、今のちょっと間の抜けてるかもしれない関係を、もう少し楽しもうじゃないか。


「泉くん……?」


 ようやく視線を戻すと目の前には三橋の心配そうな顔。昔のように脅えたりキョドったりは少なくなったが、未だに相手の考えを異常に気にする癖は直っていない。直せと言っているわけではないが。


「ん、悪い。なんでもねーよ」
「そ、う?」


 首を傾げた姿が妙に愛しくて、照れ隠しも相まって頭をがしがしかき混ぜた。「うお!?」と驚いた声がしたけれど、ちょっと勘弁してもらおう。


 ――そんなに可愛いのに、俺なんかの恋人になっちまったのが悪い。


 自身でもめちゃくちゃなこと言っていると思いつつ、三橋を解放してやる。三橋は一体何が起こったのかよくわからなかったが、泉が怒ったのではないことを知っていたので頭の上に「?」を浮かべるにとどめた。最近ちょっとずつ彼がわかるようになったというのは三橋にとってとてつもなく嬉しいことである。誰にも言っていないけれど。
 わかっているようなそうでないような三橋を見て泉はため息をつき、身体ごと顔を近づけた。


「三橋」
「は、い?」
「好きだ」
「おれ、も、だよっ」
「…じゃ、キスしていいか?」
「…?」


 どうして聞くのか不思議だった。だってそういう雰囲気ならわかるはずなのに。
 最近、不思議なことはきちんと聞くことにしている三橋は、やっぱり尋ねることにしたのだった。


「だめな、の?」
「……」


 泉はしばらく固まって。
 思わず三橋が見惚れてしまうくらい、綺麗に笑った。



「そんなわけねーな!」










 頬に伸びる手。


 閉じる瞼。


 世界が静かになって、心臓が痛くなって。





 やっぱりそっと、


 大切なものを大切にしたいからそっと、


 口づけを交わす。





――キスしよう。





「次そういう雰囲気になったら、三橋からしろよ?」
「え……が、がんばる…!」
「おー。健闘を祈ってるよ」
「……」
「……」
「ぷっ」
「くっ」








そうやって笑える今を大事にね、お二人さん?




終われ!








二万hitリク、「イズミハでのんびりほのぼの」でしたー!アンケートにご協力頂いた皆さま、ありがとうございます!


ラブラブにしようと思ったら思いの外甘くなってしまいました…ちょっと空月リクに沿えてないじゃないの!……すみませんですorz
この後ハマちゃんの話が出ると途端に機嫌悪くなる泉くん萌え。この三橋はちょっと人付き合いに慣れてきているので、それでいちいち脅えたりしないのですが、やっぱり天然はそのままで。報告されたハマちゃんは頭を抱えればいいんじゃないかな。


とりあえず少しでも楽しんで頂けたなら幸いです;遅くなってしまって申し訳ない!フリーなのでお持ち帰りどうぞv
それでは二万hitどうもありがとうございましたー!!!




08,4,30

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