三橋の朝はあまり早くない。
 というのは西浦高校野球部内平均から言ったもので、ふつうの感覚からすれば十分早い。朝練は五時には始まる。それに間に合うようには起きるから早いと言えば早いのだが、睡眠時間重視の生活を送ってきた三橋にはちょっと辛かった。
 早く起きて歩くと朝の空気がおいしい。それには三橋も賛成だったものの、食べられないものに「おいしい」とは不思議な話だと思った。誰にも言わなかったけれど。
 寝ぼけまなこを擦りながら通学路を歩く。自転車を使うことも多いのだが、昨日が雨で学校に置きっぱなしになっていた。田島なんかは傘を差しながら乗るという高等技術を披露して見せた(これは違反か?…と泉が首を傾げた)。
 辺りは静かだ。時々早起きのご老体が現れて三橋を驚かせる他には、出会うのは猫くらいのもの。
 雨上がりの空気中の水分がそこかしこを行き交って、ゆったりとした朝の空気をかき混ぜる。歩くと霞がまとわりついてくるような気がした。
 雨のせいですぐには練習できないから、今日の朝練はグラウンドから水を取り除いてからだろうと三橋は思った。
 ――早く、投げ、たい…な。
 思ったとたんに大きな欠伸が出て、
「はよ、三橋!」
「うひゃっ!?」
 背後からかけられたよく通る明るい声に、飛び上がる。
 ロボットのようなぎこちない動きで振り返ると、そこにいたのは三橋の上げた声に驚いた栄口だった。