初めて会ったのは、確か交差点だった。
 もしかしたらそれよりも前に会っていたのかもしれず、事の次第を考えればそう考えた方が順当そうだが、覚えている一番古い記憶では交差点だったので、それを初めてとさせてもらう。
 また「会った」というにはいささか語弊がある。互いに互いの方を見たのは確かだったが、会おうとして会ったのでなければ、まして話をしたわけでもなかったのだから。
 それでも、それでも初めて会ったのは、確かに交差点だった。





 スポーツ用品店で、新しいグラブを見た帰りだった。学校帰りに寄れる近場ではなく、家から電車を乗り継いで行かなくてはいけない遠い店だというのに、泉はその日遠出を決めた。
 青春の一ページは大人に言われなくとも貴重で儚いと知っているというのに、わざわざ嫌いな人ごみへ足を向けたのには、単なる気分転換と、セールをしていたからという理由しかない。これで「何の理由もなく」だとか「何か起こる気がして」などと思っていたら、それは運命的な出会いであったろうに。しかし事実は事実だ。
 帰りの電車に乗るため駅へ向かう途中、歩行者天国のような大きな交差点に差し掛かった。十字路内に白線が縦横無尽に走っている。四隅のどこからどこへ渡ってもいいようになっている。
 平日とはいえ人の出は多く、宗教の勧誘が声高に叫ぶ声やら歩くのに邪魔な位置に現れるキャッチセールスのようなものまでいる。かなり煩い。
 にぎやかなのは嫌いではないが煩いのは気に障る、という考えの持ち主である泉は、結局何もいいものがなかったことも相まって苛立ち、早歩き気味になっていた。それでも人が多くて望むように前へ進めず、苛立ちは更に高まる。こんなことに一々ムカついている自分に更に苛立つ。
 帰ったら兄貴に八つ当たってやれ――泉がそんなことを思って気を紛らわせかけたときだった。
 目があった。
 相手は泉が向かっている駅の方から歩いてきた少年で、数メートル離れたところをすれ違ったのだった。
 色素の薄い髪、細い身体、肩から下げたカバン、についているキーホルダー。その一瞬で泉が確認できたのはそれくらいだった。
 少年は後ろから他人に追い越され、一瞬泉の視界から消え失せた。そのまま消えてなかったことになるんじゃないかと泉が思ったのもつかの間、すぐに視界の端に戻ってくる。
 しかし少しすると少年は人ごみにまぎれ、当の泉も足を止めたりしなかったのでそのまま道路を渡りきり、駅へ向かった。
 どうしてあんなにまじまじと見てしまったのか。不思議だったが、彼の方も自分をじっと見ていたし、問題はないだろう。
 振り向かなかったのは、目が合って離せなくなる、という事態がそれほど稀有なものではないからだ。