<日課>






朝、目が覚めて最初、オレには日課がある。
それは昨夜、故意に外されたピアスを着け直す事。
「…っと。」
ベッドに半身を入れたまま、サイドテーブルに手を延ばす。いつもの場所に置かれた、二つの装飾品が指に

触れる。白々とした朝日の中に、きらめく銀色と濃紺。ひとつをまっさらなシーツの上に置いて、右耳から

着け直していく。
これを骸に押し付けられたのは確か、オレがボンゴレ十代目になった直後。訳も解らないまま両耳たぶに小

さな穴を穿たれて、証が欲しいんです、と訴えられて。結局流されるように受け入れてしまった。
あれからどれくらい経っただろう。――決して短くはない。だってダメツナのオレが、鏡無しでもピアスを

着けられるようになったくらいだし。
「よしっ」
一応確認、と、やっぱりサイドテーブルに置いてある手鏡で両耳を確かめる。
うん、いつも通り。ちゃんと紺色の宝石は、だいぶ伸びた髪の合間でキラキラと存在を主張している。
…それはいいのだけど。
「……」
鏡の中に映る上半身。首筋、鎖骨、肩口、脇腹――
「はぁ……」
あちこちにきつく刻まれた所有印に、オレは深く深く溜め息を吐く。これもいつも通り、なんだけど…
「全くもう…」
これじゃあいつまで経っても薄着が出来ない。もうそろそろ夏に差し掛かってるっていうのに!
顔が熱いのは季節のせいって言い訳しながら、オレは隣に眼を遣った。
「――」
フルーティーカット(by)な黒髪は意外に悪い寝相のせいでくちゃくちゃになっている。それでも起きてぱ

ぱっとやればすぐに直るんだから、元々癖っ毛なオレからすれば羨ましい。
すやすやと寝息を立てる骸を眺めながら――やっぱりこれも日課になりかけていることなんだけど――、声に

出さずに呟いた。

――こんなもの無くたって、オレはちゃんとお前のものだよ?

放っておけばいずれは埋まってしまう傷なんか。
時間が経てばいつかは消えてしまう鬱血なんか。
そんなの証にさえならないくらい、ちゃんとオレはお前のものだよ?


ほんとは声を大にして言ってもいい。
だけど――……




「ん…?」
もぞもぞと骸が身動いだ。ぱち、と開かれるオッド・アイ。
「つなよし…くん?」
「おはよう、骸」
ぼんやりとした起き抜け顔とボサボサ頭がなんだか面白くて、オレは思わずくすっと笑った。
「……っ!!」
かぁっ、と骸の顔が朱に染まる。
(
あ…やばい)
頬が引きつった。
骸はオレの腰に抱き付くようにして寝ているから、今下半身は上手く身動きが取れない。
「か…可愛すぎます…ッ!!」
「ちょっ…!待った骸!」
「待てません待ちません!愛してます綱吉くん!!」
がばっ!と勢い任せに骸が圧しかかってくる。倒されて足でも封じられたらどうしようもない。いくら鍛

えたって、まだ腕っ節が及んでいないのは自覚している。
「…!朝っぱらからサカるなーッ!!」
押し倒される前に――何とか体重を腕力に変換できる内に、拳を振上げて脳天を叩き落とす。
ごん。
「ふぐっ!?
結構いい音と共に、変な悲鳴を上げた骸が沈んだ。圧し掛かってくる重みが意図的でないのを確認してか

ら、オレは安堵の溜め息を吐いた。
「まったく…」
完全に伸びた骸の下から抜け出して、やれやれと苦笑する。
ほんと、こんなことばっかりなんだ。
自分はこれでもかってくらい睦言を囁いて愛を叫ぶのに、オレの言葉なんか聞いちゃいない。それってこ

っちは結構寂しいんだって、お前は気付いてもいないんだろうけど。
「…まぁいっか」
この愛は本物。
傷跡より鬱血より言葉より。
「証があってもなくてもちゃんと、」


続きは声には出さずに。
呟く。







徐々に高くなっていく朝日。
庭で遊ぶ鳥の声を聞きながらオレはふと思い付いた事に小さく笑った。


(
今度ピアス買って押し付けよう)





確かめる愛の証。

お前も日課になればいい。











色々ごめんなさい。甘すぎ・・・ですよね?(自分ではよく分からない)
確か空月さんが「証、を」を書いていた頃に、リボはツナに傷つけたがらないだろうけど骸は嬉々として

自分の痕跡を残したがりそうだなーという偏見からできた話。
多分今から七年後くらいかと(適当
読んで下さりありがとうございました!