9組ってやってることがままごとみたいだ。

 

 

 

 

おままごとでも、しましょうか?

 

 

 

「ままごとぉ〜?」

 

 

口にご飯を目いっぱい詰め込んで、浜田が言う。ふがふが、咀嚼しようとしていた米粒がぼろぼろ

落ちる。泉は汚ねーと半眼でそれを見ながらも、その反応は致し方ないとも思った。久しぶりに聞

いた単語に頭がついていかない。高校生にもなっていきなり「ままごと」と言われても、正直困る。

それも自分たちに対して言われた言葉だ。そもそもままごとみたいだと言われても、ちっとも嬉し

くない!

なにか。9組はガキの集まりだとでも?

 

 

「阿部に言われたのかーみはしー?」

 

 

机の向こう側から身を乗り出してきた田島に、三橋は首を縦に振る。本当は阿部に言われたことで

ある、というのはすぐにわかった。そんなことを言うのはあの捕手くらいのものだし、言おうか言

うまいかオロオロ悩む三橋の姿を見れば一目瞭然。言ってしまって阿部の機嫌を損ねないか脅えて

いるのだ。

なら言わなきゃいいのに、と皆思うが、それでも最近ようやく自分から話をしようと努力し始めた

三橋を応援したい気持ちが強い。だからまあ阿部は置いておくとして、の精神である。

 

 

「な、んか…」

「ん?」

 

 

促すように泉が相槌を入れると、三橋は泉を見て、浜田を見て、田島を見て、もう一度泉を見た。

 

 

「い、ずみくんが、ホゴ者で、俺と、田島くんと、ハマちゃん、が、こどもみたい、だって…」

「えー何言ってんだよあべー!?

 

 

田島が大声で文句を言い浜田が眉間にしわを寄せたが、泉はああ、と息をついてそれもそうかもな

ーとつぶやいた。三橋と田島はぴょこぴょこ飛び回って子供そのものだし、一歳年上の浜田もある

意味かなり頼りないところがあるので。

 

 

「ヒデーな泉…おれ、一応年上なんだけど…」

「なら勉強教えろとか二度と言うなよ」

「うぐっ!」

 

 

泉に視線も合わせずに言われ、浜田は軽く絶句する。しかしそれもいつものことなので田島と三橋

は動じる様子もなく二人のやりとりを笑ったりつつき合ったりキョトンとしたりしながら見ている。

むしろそんなほんわかした光景がほほ笑ましくも少し羨ましくて阿部は「ままごと」と言ったのだ

が、それには誰も気づいていない。

 

 

「でもさー、ホゴ者ってゆーよりもさ」

 

 

田島が泉を見てニシシと笑う。

 

 

「イズミ、お前さ、ダメな旦那に説教するかーちゃんみたい!」

「誰が旦那で、誰がかーちゃんだよ…」

 

 

泉は呆れかえった顔で言い、三人よりも早く食べ終わった弁当をカバンにつっこんで机に突っ伏し

た。田島が顔を覗き込む。

 

 

「あれ、寝んのっ?」

「疲れた。ほら、子供らはあっち行って遊んで来い」

 

 

ため息とともに吐き出された言葉に田島は口を尖らせると、べー!と舌を出して走って行ってしま

った。浜田は浜田でこれ以上泉の機嫌を損ねるといろいろまずいので、あーおれ団幕作らなきゃ〜

と言いつついそいそと離れてゆく。

 

 

「……」

「……」

 

 

その場には、目は閉じずに机につっぷしたままの泉と、自分のこれからの行動にイマイチ自信が持

てていない三橋が残った。

三橋は泉をちら、と見て、その視線がこちらに向けられているのに気づくとすぐに目を背けた。三

橋は泉の真横に座っていたので、まさか自分の方は見ていないだろうと少々油断していた。

慣れてきたとはいえ、まだ他人と目を合わせて話すのは苦手。また泉が疲れたのは自分のせいでは

ないか、と勘繰ってもいる。自分が余計なことを言ったせいではないだろうかと。

三橋といっしょにいることが長くなり、その常人からは少しズレた思考回路に慣れ始めた泉は、心

の中でため息をつく。別にいつだって三橋のせいではないのだから。

                  

――むしろ、俺のせいとかにしてくれた方が、いい。

 

その方がずっと三橋の特別のようで。

 

 

「三橋」

「は、い!」

 

 

泉の言葉をずっと待っていたせいで力を込めすぎ、ひっくり返った返事が三橋の口から飛び出る。

表情には出さないけれどそんな姿が妙に愛しくて、泉は春の風の中にいるような、本格的に眠たく

なったような気分に陥った。

今ここでぎゅーっと抱きしめたらどんな顔するんだろう、とちょっと考えて、でも自分はそんなキ

ャラじゃないのでやめておく。

突っ伏したまま三橋を横目で見上げて、泉は口を開いた。

 

 

「ままごと、別に嫌なわけじゃないから」

「へっ」

「三橋のせいで疲れたんじゃなくて、田島が余計なこと言ったから。別に、お前らの世話が嫌なん

じゃねーよ」

 

 

じい、と泉のまるい瞳に見上げられて、三橋はぱちぱちと瞬きする。自分とよく似たまあるい瞳な

のに、とても強い光を放っている。

 

――うわ、あ。

 

泉は三橋にとって「すごいひと」でも「いいひと」でもない。じゃあなんだと言われると困るので、

本人にそれを言ったことはない。

でもときどき、彼に対するなんだかよくわからない気持ちがあふれそうになる。少し困る。

今がちょうどそんなときだった三橋はだいぶ眉をハの字にしている。

泉はそんな三橋を見つめて、見つめて。

にい、と笑った。

 

 

「三橋、さっきさ」

「…う?」

「俺が駄目な旦那に文句言う母親みたいだって、田島がさ」

「う、ん」

「誰?旦那って」

 

 

う、お。三橋はそう言おうとして、言えなかった。あまりにも意外な言葉だったから?たぶん違う。

気になっていたからだ。そのことが。

言葉が喉の奥でつっかえたまま押し黙る三橋が、予想以上に期待通りで泉は少し嬉しくなり、更に

口角を上げた。

 

 

「浜田?田島?それとも、三橋?」

「あ、だん、な、あう、」

「でも、俺もオトコだから母親はな」

「そ、だね」

「それじゃダンナの方か」

「…?」

「なあ、みはし」

 

 

首を傾げた三橋に向かってあくびをひとつ。トロトロした瞳でふわり、微笑み。

そんなに眠いわけでもないのに、穏やかであたたかで、幸せな気持ちになる。

 

 

「な、に?」

 

 

三橋はこちらにまで心臓の音が聞こえてきそうなほど緊張して尋ねる。

三橋の心臓のことだから、きっとやたらと可愛らしい音なんだろう。

 

 

「ままごと、しようか」

「お、え?」

「ままごと。ふたりで」

 

 

泉は楽しそうに笑った。そして、ゆっくり、目を閉じる。三橋が視界からいなくなるのが本当に惜

しいと頭の中で思いながらも。

 

 

「みはしって頼りないから、きっと頼れるダンナ、必要だと思うよ」

「…あ、」

「きっと、な」

 

 

目をつぶった泉のそれはそれは幸せそうな顔に、三橋は顔を赤くした。

なんでだかわからないのは相変わらずだけれど、確かに心臓が、きゅ、と鳴いた。

爽やかな風がそばを通り過ぎて、ふたり分のワイシャツの襟を揺らしていった。

 

 

 

 

 

 

何事にも練習が第一だから。

                  

まずは。

 

 

 

 

 

おままごとでも、しましょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6000hit記念に兆志レミ様に捧げさせて頂きます、リクは「イズミハ」。

兆志様、これで大丈夫でしょうか…?なんだかどこか非常に間違っている気がする…。もう煮るなり焼くなりお好きにどうぞ!

ノリはシャルウィーダンスです(えええ!?)とにかく横目で三橋を見上げる男前泉君が書きたかっただけのようだ…。

どうでもいいけど「泉廉」ってよくないですか?音的に。イズミレン。え、かわいい。

 

お持ち帰りは兆志様だけお願いします。6000hit、ありがとうございましたー!!!

 

 

07,9,3