Halloweenjack!!!


よかったらどうぞ。(Topのと同じですが)




first

ハロウィンの夜は誰もが主役。誰もが正義の味方で誰もが悪人。
そんな日の彼らは、きっと素敵に違いない。


                               はじめのことば



真田×沢村<ダイヤ>

 不適な笑みは普段とさほど変わらない。
 だけれど夜闇の中で喜色と狂気を身に纏う彼は、栄純の目には十分異常に映った。
「どうした?栄純」
「ん…何でも、ないけど」
 彼の手が肩から滑り、腕を伝って腰に回る。するりと布越しに撫でられるだけで全身が震えた。
 上目遣いで見上げられて真田はますます口角を上げる。
 瞳の色すら普段と違うような気がして、栄純は背筋に走る奇妙な感覚を追い払いたくて堪らなかった。
「真田さ…ん、どうしたんすか…?」
 堪らなず問うと、真田は栄純の頬に唇を当て、驚きで跳ねた身体を抱きとめた。
「――何でもねぇよ?」
 瞳の奥に走った光は、赤か青か。


                           こっちが本当



西広×三橋<おお振り>

 三橋の手の中にはたくさんのお菓子。チョコクッキーガムキャンディケーキアイスプリンマシュマロ。
 たくさんたくさんあるけれど,何とはなしに物足りない。
 ああそうか、まだ彼に貰っていないんだ。
 振り向いて彼を見つけて駆け寄ると、待ってたよ、との声と共に手に滑り込んだのはまだ手に入れていなかったお菓子。
「西広く、ん、俺まだ、言ってな、いよ?」
「あ。早とちりしちゃった!」
 頭をかいて恥ずかしそうに笑う西広に、三橋は慌てて言葉を添えた。
「トリック・オア・トリー、ト…!」
「うん。歯に詰まらせないようにね」
「!は、いっ!」


                         ヌガーもお忘れなく



了平×ツナ<REBORN>

「…お兄さん,それ,どうしたんですか?」
「おお、沢田!いやパオパオ老師が」
「わかりましたありがとうございます!…で、何してるんですか!?」
「この菓子を飲み込むと新たな力に目覚めるらしい!沢田も食べるか!食べるな!?」
「これ死ぬ気弾だろリボオオオーン!!?」
「いやしかし外国の菓子は色が派手だな!」
「違います違います!あの、それは多分間違いです!こっちどうぞ!」
「うむ?…そうか、わかった」
「(意外と聞き分けよくてありがたい…!)じゃあこの緑の銃…もといお菓子は老師?に返しますね」
「わかった!ならこっちを貰うぞ!沢田、すまんな!ぱくっ」
「はは…」
「む!何か…力が湧いてきたぞ…!」
「ええぇ!?」
「熱く何かがたぎって…うおおお!(ダッシュで走り去る)」
「ふ、普通のアメなのに…?」


                  それはお菓子じゃありません



降谷×沢村<ダイヤ>

 栄純は不満そうに頬を膨らませて降谷を見上げた。お前そもそも用意してなかったんだろ!という文句に黙って部屋の奥の積み重なったお菓子の空き箱を指し示すと、栄純はバツの悪そうにそっぽを向いた。
「もっと早く来れば良かったのに」
「…」
「なんで?嫌だった?」
「ちがっ…違う、けど」
 最後に来たかったんだ、と栄純の唇が小さく音をかたどったので、まったくこの可愛い魔女は、と降谷は嘆息した。こう恒常的に魔法を使われた日にはハロウィンも形無しである。
「お菓子はもう無いから、代わりに」
 そっと屈んで顔を近づけると、降谷の唇にぴたり、栄純の人差し指が当てられた。
「え」
「そういう代わりはいらない」
 恥ずかしそうに頬を赤く染め、降谷のシャツの裾をきゅ、と掴んで。
 栄純の唇からチョコ混じりの吐息が漏れた。
「部屋、入れて…?」

 ――最後の魔法には見事陥落――

 降谷の後ろ手から、最後のキャンディがぽろりと落ちた。


                         もう売り切れだよ



結城×沢村<ダイヤ>

「何してるんですか?キャプテン」
 声を掛けられ結城は振り返った。そこには少し低い位置に栄純の顔があり、不思議そうにこちらを見上げている。
「沢村か。昨日はハロウィンだっただろう」
「え、あ、はい!仮装楽しかったっすね!」
 キラキラと輝く笑顔が太陽を反射する。思わず自分も笑顔になっているのを結城は不思議な気持ちで受け入れながら、そうだな、と言った。
「そのとき、ここら辺に天使の仮装をしていた奴がいたんだが」
「……天使、ですか?」
 栄純が目をまるくしたのは単に見ていなかったからだと結城は思って、頷く。栄純の頬に伝った冷や汗には微塵も気付かずに。
 空を見上げた。今は太陽が占拠しているが、昨夜はただただ月明かりと闇が埋め尽くしていた空は、その天使を包んでいるかのようで。白い服と白い羽根と、それに見合う白い肌が、ふんわり闇に浮かんで見えた。
「綺麗だった」
「!」
 優しげに言う結城に、栄純は真っ赤な顔と見えない羽根を伏せて、そうですか、とつぶやいた。


                         舞い降りた天使



雲雀×ツナ<REBORN>

 差し出された右手にはまだ何も乗っていない。黒服の彼――ハロウィンの仮装らしいが、黒いだけなのであまり普段と変わらないとツナは思った――は、焦れったそうに眉をしかめて、ほら、とツナに促す。
 しかしツナは渡そうとして手からぼろぼろ零れたお菓子を必死に拾い上げているので彼が苛々しているのに気付かなかった。想像は出来ていたけれど。
 開口一番彼は悪戯をする気は無いと宣言、驚くツナに言い放ったのだ。
 ――、よこしなよ。
 ツナは必死にお菓子をかき集め、慌て過ぎて落とすという作業を繰り返した。でもこれもいつまで持つかわからない。たぶんあと数分も経たない内に、彼はツナの胸倉掴んで再度要求するのに違いないのだから。
 またポロッとキャンディを落として、ツナは何と返答すれば今宵に相応しいのかと考えて、落ちたキャンディに手を伸ばした。


                                 君を



利央×三橋<おお振り>

 チョコレート。アイスクリーム、ビスケット。(あ、一句出来た)
 パイにケーキにキャンディに、蜂蜜たっぷりシュー・ア・ラ・クレーム。
 あの子に良く似たそれを一番良い位置に置いて、利央はよしっ!と小さくガッツポーズをした。
 ポーン、と優しい音のチャイムが鳴って、利央は武者震いを感じつつも玄関に向かって歩み出す。
 カチャ、とドアを開くと頭一つ下には可愛らしいお化けがオドオドこちらを見上げていて。
「と…りっく、お、おあ、」
「どっちも」
「とりー……、え?」
 三橋はまあるい瞳を利央に向けて、首を傾げた。
 利央はにっこり微笑む。
「どうぞ、どっちもしていって」
 抱きとめられて、目を白黒する三橋に、このにおい、なーんだろ?悪戯っぽく尋ねてみた。


                         パーティーグルメ



雷市×沢村<ダイヤ>

 ハロウィンだからってお菓子なんか無い、と栄純に言われ、雷市は頬を膨らましてむくれた。
「だって真田先輩が栄純のとこに行けばあるって」
「はあ!?な、何言ってんだあの男…」
「あ」
「え?」
 雷市はくんくん、と鼻を鳴らした。そして栄純の髪を嗅ぎ、頬を嗅ぎ、服を嗅いだ。
 犬そのものな動作に栄純は怪訝な顔で身を引く。
「な、なんなんだよ…?」
「んーんー、なんか、いいニオイがする」
「ハア!?」
 お菓子など持っていない。いい香りのシャンプーなんて使っているはずもない。ならばコレは。
「栄純の、においだー」
 栄純はぎゅーっと抱きしめられて真っ赤になり、食べていい?という問いにビンタで答えた。


                        あまいにおいがする



川上×沢村<ダイヤ>

「え?」
「え?あ、いや、あの…迎えに来たんだ」
 沢村はまさか俺が来るとは思っていなかったんだろう、驚いて二の句が告げなくなっていた。
 それは俺だって同じだ。でも今日ばかりは――仮装して誰が誰だか知れないのだから、いいだろうと思う。
 きっと後で御幸や倉持や他の奴らに散々嫌がらせされるんだろうけど。
 手を差し出し、
「来てくれる?」
 そう、尋ねた。
 沢村はにっこり微笑んで(それがまた殺人級に可愛いんだ)、
「もちろん」
 そう答えた。

 …合わせた唇の感触が、魔法なんかじゃありませんように。


                      今夜は主役、頂きます。



リボーン×ツナ<REBORN>

 もう直ぐハロウィンか。
 リボーンの言葉に綱吉は閉じていた瞼を持ち上げる。
 そういえばそんな行事もあった。しかしここイタリアでハロウィンを祝うのは正当なカトリックではない。あれは確かケルトの祭だ。
「なにボーっとしてやがる。ツナ」
「いてっ!…もう、やめろよな!もう…」
 もう子どもじゃないんだから。
 そう言おうとして、綱吉は口を開いたまま固まった。
 目の前の彼は。大人になることを止められた子どもでない子どもである彼は。
 リボーンは綱吉の瞳に浮かんだ色を見て取ると、フン、と鼻を鳴らした。
「…で?」
「え?」
「お前、今日が何の日か忘れた訳じゃないだろうな?」
 綱吉は暫く茫然としていたが、みるみるうちに全てを理解して声を上げて笑ってしまった。
「笑うんじゃねえ」
「だって…ははっ…!」
 彼は。
 幾度もの昼と夜を繰り返し、しかし分相応に子どもである彼は。
 綱吉はそっと、彼の頬に口づけて微笑んだ。
「誕生日おめでとう。リボーン」


                         眠らない夜と起きない朝



田島×三橋<おお振り>

 三橋はひっくり返った。寝ようとした矢先、部屋の窓に人影が現れたのだ。
 何も言えずに固まっている三橋を人影は楽しそうに眺めて、ハッピーハロウィン、と笑った。そこで三橋にも彼が何者かわかった。
「た、田島、く…?」
「違うよ」
「へ…」
 すんなり否定し、彼は腕を広げてみせた。黒い布が舞った。
「何だと思うっ?」


                               即席ゴースト



浜田×三橋<おお振り>

『桶に水を張ってリンゴを浮かべ、手を使わず口だけでリンゴを取るゲームです』
 なるほど、と浜田は本を片手に相槌を打ち、三橋はおおおっと目を輝かせた。
「三橋、パーティーのゲーム、これでいいかなあ…?」
 答えは決まっているので浜田はもったいぶって自信たっぷり、尋ねた。
「お、いし、そうだっ、ねっ」
「ぷっ…うん、それでアップルパイも作ろうな」
「うひっ!」
 ぽんぽん頭を撫でると、暑さのせいか寒さのせいか、三橋の頬は鮮やかな紅に染まった。


                                    林檎



クローム×ツナ<REBORN>

 帰り道で俺に会った。
 ――じゃなくて!
「え…と、クローム、だよね?」
「…さすがボスね」
 偽沢田綱吉ことクロームは静かに言った。バレるのがわかってたみたいだ。それとも骸と区別できたことに対しての感心だろうか。
 無表情の沢田綱吉は不思議だった。自分で言うのも難だけど。
「仮装」
「え?」
「好きなものにしなさいって、骸様が言うから。ボスになってみたの」
 霧の守護者は悪びれずにそう言って、似合うかな、と心持ち笑った。
 あ、やっぱりクロームだ。俺は思った。


                            あなたに仮装して



片岡×沢村<ダイヤ>

「かんとくぅ…」
 うるうるの瞳が片岡の鋭い両眼を見つめ、ぱちぱち瞬く。火花や星が出るようなそれは魔法みたいだ。
 栄純がおずおずと近付いて、耳元で囁く。あ…、と熱く甘い吐息が漏れた。
「次の試合…いいっすか…?」
 片岡は目を瞑って暫し黙り、静かに言い放った。
「致し方あるまい」
「よっしゃー先発ゲットーっ!」
「「「監督ーっ!?」」」


                            魔法遣いにお願い



花井×三橋<おお振り>

 何やってんだ三橋。
 思わず言いかけた言葉を飲み込むと息がしにくくなった。
 はあ、とついた息を三橋は呆れのため息と勘違いしたらしい。身体を一際大きく震わせたと思ったら、あっという間に目から大粒の涙…
 ――わあーっ!?違うっ、怒っても呆れてもねえって…!
 何でシーツらしき布をかぶっててるてる坊主になってやってきたか、聞きたいだけなのだ。
 慌てた花井は気が動転して思い切り叫んだ。
「かわいいって!」


                         ちっとも怖くないお化けは



山本×ツナ<REBORN>

 ごめんなーと周りに声をかけながら人波をかき分けかき分け山本は辺りを見渡す。
 キラキラと着飾った妖精のような少女達は、美しかったがそれだけだった。
 キラキラの中、一角だけ地味な優しい色を見つけて、山本は叫んだ。
「ツナ!」
 彼には妖精以上に見える少年は振り返り、くすぐったそうに微笑んだ。


                           妖精はお呼びじゃない



ランボ×ツナ<REBORN>

「ばあーっ!」
 ツナが家に帰ると飛びついてきたのはランボだった。ついでに鼻水も一緒についてきた。
「わっ…離れろよ!ウザいっ…」
「やだもんねー!お菓子もらうまでこのままだーっ」
 変に調子外れの声に言われ、ツナはああハロウィンかと得心がいき、しかし日本なのでそんなものは用意していない。
 仕方なくポケットを探ると、紙屑と一緒にひとつだけ。
「ほらランボ、これ…」
「ぴぎゃあああ!ツナのバカーっ!」
「ちょっ…!」
 探す間に耐えられなかったらしいランボはわめきながらバズーカを取り出した。
 ツナに止める隙はなく、放たれたバズーカに現れたのは十年後の彼。あちらでもハロウィン中だったのか、ランボは扮装として所々包帯を巻いている。
「おや、若きボンゴレ…今日はハロウィンでして」
「知ってるよ…あーもう」
 肩をすくめたツナの手から、ぽろりと飴玉がひとつ、大人ランボの手に転がり落ちた。


                            降ってきたキャンディ



鳴×沢村<ダイヤ>

 頭からチョコレートをぶっかけるバカを栄純は知らなかった。
 が、今知った。
「ふぎゃあああ!?」
「わーえーじゅんごめーん!」
 手が滑っちゃって〜と歌うように宣言するバカこと成宮鳴は、チョコまみれの栄純を見下ろしウインクひとつ。
「えーじゅんチョコ好きって聞いたから、俺からのプレゼントだよ」
「いらんわっ!ていうかベタベタで気持ち悪いっ!」
 ガランッ
 鳴はチョコが入っていたボウルを床に叩きつけた。大きな金属音に栄純はびくっと震え上がる。
 鳴は楽しそうに笑みを浮かべ、栄純の瞳を覗き込んだ。
「――おいしそ」
 ペロリと頬を舐め上げて、首筋のチョコをぬるりと撫でつけて。
「あっ…鳴――ッ!」
「ね、栄純」
 下肢に手を伸ばしながら、唇を奪った。
 長いキスの後に二人の間に伸びた唾液が、震える。鳴が笑っていた。
「上も下もみーんな、ぐちゃぐちゃにしてあげる♪」
「べっ…ベタなこと言うなあーっ!?」


                       ベッタベタだっていいじゃない



叶×三橋<おお振り>

廉、廉。似合ってるよ。だいじょうぶ。変じゃないって!ほら、三橋のアレ見てみろよ。天使っていうか、頭の輪っかが取れかけてて…ぷぷっ…。
修ちゃん、ね、俺、いいの?
…えぇ?
俺、最悪だ、けど…まだ、いて…いいの…?
…。
――俺はそれを否定しなかった。廉がしているのは奴らにとってどれだけ酷い所業か、本当は良く理解していたから。そしてそうでもしないと廉が生きていけないことも。
そう、だけど、俺はそれでも、廉のこと、
…廉。
――そっと引き寄せて、耳元で囁いた。


                              俺は悪魔派だよ



骸×ツナ<REBORN>

 ――こんばんは、愛しの綱吉君。え、何の用かって?ていうか愛しのって何だって?やだなあ、同時に言われたらどっちに返事すればいいかわからないじゃあないですか。…とりあえず何の用か?まったくわかってないですねえ。今日はハロウィンでしょう!ああ、君の家を知っているのは当然ですよ別にクロームがつけたとかそういうわけではな……ええ?ここは日本?知ってますよーだからほら、仮装も日本を意識して頭に白い三角を……どうしたんです頭抱えて?あ、そうそう、忘れちゃいけないですよね。Trick or treat!…そりゃあ伊達にイタリアにいませんよ。英語くらいできます。お菓子?ない?え、どうしましょうねえ…。じゃあまあとりあえず綱吉君のキスでうまくまとめるという方針でクフアッッッ!!?


                              二度と来るな!



ディーノ×ツナ<REBORN>

 嫌だ何でそんな俺別にマフィアの付き合いなんてどうでもいいしほんと勘弁してよ!
「なあ、ツナ」
 彼は優しく、膝を抱えるツナの頭にぽん、と手を置いて。
 もしマフィアの大切さなんて語られた日には絶対にパーティなんか出ないぞ、と心に決めたツナが顔を上げると、彼は立ち上がってツナを見下ろした。
 数歩の距離を取り辺りを見渡し、お、ここからでもランタンが見えるぜ!なんて子どもみたいに笑う。
「ディーノさん…?」
 彼はくるりとステップを踏みながら一回転すると、飛び込んでおいで、とでも言いたげに両手を広げた。
 それが、魔法使いみたいに見えた。

「なあツナ!」


                              ダンスしようか



百枝×三橋<おお振り>

 ――あれでもないこれでもないそれでもない!
「かんと、く?」
 後からかけられた声に百枝は飛び上った。もうパーティ始まりの時間だろうか?
 恐る恐る振り向くとそこには三橋の姿があった。見たことのないきちんとした礼装は漆黒のスーツで、普段の日の光りの下なら「似合わない」と爆笑もできようが、夜の浮足立った状態ではそれも無理というもの。羽織ったマントから察するに、吸血鬼。
 ああやっぱり男の子なんだなあなんて、心のどこかが思ったりする。
 三橋は呆然としている百枝を見て不思議そうに視線を落とし、あ、と声を上げた。
 百枝の手に握りしめられていたのはパーティドレス。赤いそれは彼女にとても似合いそうで、けれど今日のこの日の仮装ではない。
「かんとく、今日、は」
「わっ、わかってるんだけどっ」
 思わず大声が出てしまった。三橋を怯えさせてしまったんじゃないだろうかと百枝が身構えたが、彼はきょとんとまあるい明るい色の瞳を瞬かせただけだった。
 百枝は視線を落とす。
「やっぱり、おしゃれは、したいものなのよ」
「……?」
「三橋君、コレじゃ、だめ?」
 甘えるように差し出した控えめのドレスに、三橋は珍しく苦笑して、それから星の瞬きみたいな笑顔を見せた。


                       女王さま、ドレスは無粋です。



楊×沢村<ダイヤ>

「トリックオアトリート!」
 彼はその言葉を聞くと数回瞬きをして、腕組みして考え込んだ。
 ポケットの中に手を伸ばすとちゃり、という硬い音。
 栄純のてのひらに乗せられたのは、数枚の百円玉だった。
「え…」
 まさか用意が無いからと言ってお金になるとは思ってもみず。
 もしかしたら迷惑だったんじゃ――なんて考えておろおろしていると、彼は玄関先にあった上着を手に取り靴を履いた。
「え、しゅ、舜?」
 黒い大きな瞳で見上げてくる栄純に、彼はなんでもないことのように。
「悪い、何も用意していなかったから。買いに行こう」

 手をつないで。


                        山吹色の菓子はちょっと…