きみとホットケーキ


 得意料理は?という質問があったとしよう。高校生男子にそんな問い掛け誰がするんだ、という反論はあるだろうけれども。
 得意料理は、と聞かれたら、水谷はたぶん高校生男子よりも高校生女子に似合いの答えを吐く。
 あんまり得意じゃないんだけど、お菓子とか作るのは好きだよって。
 にへらといつもの笑みを浮かべて、ちょっとバカにされたりからかわれたり、でも真実なんだからとムッとするだろう。
 さて、それはさておくとして。





「ホットケーキ?」
 水谷は目をまるくした。普段からあまり緊張感の無い方だが、それにしても呆けた表情をしている。
 少し下の位置にある大きな目が二度瞬いてから、三橋は頷いた。こわごわこちらを見上げているけれど、怖がられているのではない。反応を窺って及び腰になっているのだった。しかしちあゃんと頷いた。やっぱり三橋の得意料理はホットケーキらしい。
 水谷は三橋が何と言おうと、もしそれが「お湯、沸かせ、る、よ!」であっても笑顔を返す自信があった。
 ――しかしホットケーキ。されどホットケーキ…。
 思い入れがあるわけでもないのに妙な文言を頭の中で回し、水谷は脳内でホットケーキホットケーキと唱えた。
「三橋は、ホットケーキ好きなんだ?」
「う…?う、んっ」
 ほこっ、と、あたたかい笑顔が咲く。
 水谷は心がふんわり充足されるのを感じつつ、よく考えてみるとこの場合、ホットケーキを作ることが好きなのか、それともホットケーキを食べるのが好きなのかわからないぞと思った。自分はどっちのつもりだったのか思いを巡らせ、忘れた。というか、わからなくなっていた。
 まあどっちでもいいやと放り出し、三橋のホットケーキ食べてみたいなあと幸せそうに頬を緩ませる。
 三橋はまるい目をますますまるくすると、水谷くんも、好き?と尋ねた。
 うん、これはいいと思って水谷は笑う。もちろん、三橋の口から聞いたから。
「好きだよ〜」
「うおっ、お、おいしい、よ、ね!」
 どうやらホットケーキを食べるのが好き、で当たっていたらしい。
 その方が三橋らしいなと水谷は思って、笑った。
 女の子らしくはないけど三橋らしくて可愛いな、と思って。








深雪葵さまより、ほのぼのしあわせなミズミハ。
しあわせなのは水谷だけですね…!でも三橋もこのあと水谷にホットケーキ作ってあげたりすればすごく幸せだと思います^^
可愛らしいリクエストありがとうございましたv宜しければお持ち帰り下さい。







08,12,06