tooo sweet...


 二枚目、という言葉は彼のためにあるといっても過言ではない。それは桐青高校において暗黙の了解事項というか、十人中十人が肯定する事実でもあった。
 それほどに準太は整った顔をしていたし、その端正な顔に見合った行動を取っていた。女の子が困っていればさり気無く優しく笑顔で手を貸すし、野球をしているときの彼は一つ一つの動作が神がかってキレがありかっこよく、少女達はとにかく見惚れた。桐青高校野球部の応援席は準太が登板のときのみやたら女子の数が増える。誕生日、クリスマス、バレンタイン、ホワイトデーともなれば彼の周辺は浮き立つものと落ち込むものでごったがえする。
 けれど準太にとってそれは昔から当たり前のことで(それを言ったら利央が「信じられない!」と本気で叫んだが)、よくはわからないがみんな大変だなと自分のこととして見ていなかった。彼は他人と同じくらい女の子に興味はあったけれど、それどころではないくらいに野球に惚れこんでいたからだ。だがしかしお付き合いを丁重に断られる少女達はそんな彼が好きなのだと声を揃え、利央やら島崎やらが「うわー」と半眼になったのも道理ではある。
 だから、彼が本気で三橋を好きになったとき、周りはそりゃあ良かったと概ね歓迎した。もちろん三橋に惚れていた面々はむせび泣いたが、それでも準太は本当に三橋のことが大好きなようだったし、三橋に問い詰め…もとい、尋ねてみると、とっても嬉しそうに「おれ、じゅんさんが、すきです、よっ」と笑うのだ。どちらかと言えば桐青より西浦の方が波乱含みだったそうだが、それはともかく三橋も幸せ、準太も幸せなら言うこと無しではないか。
 無しではなかった、の、かな…?





「はい、廉」
 とろおりマンゴーとイチゴのプラチナパフェ。
 それがその物体の名前だった。「とろり」ではなく「とろおり」である必要性はどこにあるのかとか一体何がプラチナなのかとか河合は思ったが、それはともかく。
 準太が柄の長いスプーンですくい上げたそれを三橋はきらきらの瞳で見つめる。口元に寄越されて、準太とその一口とを交互に見つめ、にこっと降って来た彼の笑顔に真っ赤になりながら口に入れた。
 途端にとろける三橋の幸せそうな顔。それを見る準太のデレデレと崩れた表情。
「うまい?」
「は、いっ、とっても…!」
「ん、じゃあひとくち」
 今度は準太の手から三橋にスプーンが渡され、三橋は慣れた手つきでそれを受け取るとパフェの黄色と赤と白が混ざり合ったところをうまい具合にすくって差し出す。
 イチゴのように甘酸っぱく恥ずかしそうでいて、生クリームみたいに甘い笑顔で。
「はぃ、あ、あーん…」
「んー」
 ぱくっと三橋からパフェをもらって準太は満足そうに微笑む。それだって天下の桐青高校を席巻する美形だから厄介だ。周りのお客さんたちの目をやたら引いている。まあ高校生男子がファミレスでいちゃついている時点でだいぶ注目の的になってはいるのだが。
「うえー…」
 利央はやってられないと言わんばかりの顔でそれを見つめ、一気にアイスコーヒーを飲み干した。そうでもしないとあの甘さに当てられそうでリアルに怖い。
 三橋と準太のデートにこっそり付いていこうと提案したのは島崎だった。引退して暇ということもあってか(本当は受験生)、最近彼は部にちょこちょこ顔を出していた。デートを隠れ見るなんてまた不謹慎な、と何人かは思ったが、好奇心には敵わない。結局他の三橋を知っているメンバーまで掻き集められ、準太と三橋のデートを追っかけ隊が出来上がり、今に至る。
 二人は駅前で待ち合わせるとファミレスに入り、そして、すでに二時間が経過している。
 一体何をしているのかと言えば、今のような食べさせ合いっこに延々と時間を費やしているのだ。
 そりゃあ一回や二回なら恋人同士で楽しそうで良かったですね!…と若干の悔しさを込めて言えば気が済むだろうが、デザート五品分でやられた日には堪らない。
 桐青メンバーはテーブルに突っ伏し二人の甘い空気に当てられないようにとさっきからアイスコーヒーやらホットコーヒーやらとにかく甘くないものを注文しまくってしのいでいた。そして出来るだけ見ないように努める。色々泣きそうになるので。
「あ、」
 三橋が声を上げたのでさすがに視線を走らせると、三橋の手にパフェの生クリームがほんの少しかかってしまっていた。パフェって崩して食べるの大変だもんなあと迅が満身創痍状態で思っていると、慌てた三橋がおしぼりを手に取ろうとするのを準太の手が制した。
 ん?おや?
 そう桐青の面々が首を傾げた瞬間準太の手が三橋の手を取り、口元へ持っていき、ぺろり、と舐めた。
「「「!!!?」」」
「うひっ…!?」
 爆発しそうに真っ赤に染まった三橋を見て、手を取ったまま準太は笑う。
「ほら、とれた」
「あ…あぅ…」
 それすらとてもきれいで、かっこよくて、三橋は気絶しそうな己と戦いながら消え入りそうなありがとうございますと共に目を伏せた。
 そんな三橋が可愛くて堪らない準太は、ああかわいいなあ、と、臆面もなく口にする。
 桐青野球部の面々は幸せすぎて今にも昇天しそうなエースに頭を抱え、いつか西浦に殴りこまれるんじゃないかと身の危険を感じた。
 調子に乗った準太による最終通告(?)はこうだった。

「なあ、廉…キスしてもいい?」
「!!?」

 それはそれは楽しそうな準太の声が響いた瞬間、利央がお会計お願いします!と叫んだのであった。








ニコルさまより、バカップルな準ミハ。
桐青のみんなが不憫になってしまいました…。
実際にいたらうざい!けど準ミハだから何か許せる…!というのが彼らのクオリティです(笑)。
素敵リクありがとうございましたv宜しければお持ち帰り下さい。







08,11,16