玉将


 十分。倉持は時計を見て間違いなく確認した。十分だ。十分は経っている。
 そして壁掛け時計から目の前の光景に視線を戻した。口から漏れるため息。もう何度目か知れないが、もはやどうでもいい。
 夜に御幸の部屋に他の部員が集まってくるのは恒例化している。伊佐敷は少女漫画を読み、御幸と倉持はゲームをし、一年ルーキー達はそこら辺でじゃれている(非常に羨ましいことに)。他はまあ適当にゲームに混ざったり亮介のようにニコニコしながら場を傍観して楽しんでいる者もいる。
 楽しい一時、のはずなのだが。
「あ、の…倉持先輩」
 横から春市に声を掛けられ、あぁ?と気のない返事をする。
 春市は倉持と問題の二人をせわしなく交互に見やってから、尋ねた。
「栄純君とキャプテン…何やってるんですか…?」
「…そりゃ、こっちが聞きてえよ」
 春市はですよね…と肩を落とした。他に見るものも無いので仕方無く、二人に視線を戻す。
 部屋の真ん中、将棋盤を挟んで栄純と結城がいる。まあこれはいつものことだ。数少ない将棋経験者である栄純はよく結城の相手をしている。
 問題は、二人が突然見つめ合ってから十分間微動だにしていないという状況だった。
 いや、もっと長いのかもしれない。それまで皆いつも通りまったり過ごしていたので、二人が熱っぽい目で見つめ合っているのを発見したのはしばらくしてからのはずである。
 第一発見者・この部屋の住人でもある御幸一也は固まった。何やってんすか、と言おうとして二人の世界に入って行けず固まっている御幸を怪訝に思った倉持が悲しいかな第二発見者だった。そこからはもう芋づる式である。は?え?何…?と皆が固まったりゲームのコントローラーを落としたり漫画を落としたり、場は騒然。だがしかし二人はじっと見つめ合ったまま微動だにしない。
 まじまじ見つめるのもまずいかと横目で様子を窺っていたのだが、さすがに五分を過ぎた辺りであきらめ始めた。
 結城が将棋の手を考え込んでいる姿は日常茶飯事である。しかしその間栄純は御幸に突っかかったり倉持の餌食になったり降谷に寄っ掛かられたり忙しいのが常だ。
 では一体何なのか、と皆が半眼で二人を見ていると。
「ふーっ」
「はーっ」
 二人がやおら息をついた。何!?と他の部員が肩を震わせる。
 栄純はにこっと可愛らしい笑顔を見せた。あー沢村可愛い…と一瞬場が一致団結した。
「勝負、つかないっすねぇ」
「ああ、そうみたいだな」
 結城が穏やかに微笑んで言うのに、背後からあのーと声がかかり、結城は顔だけ振り向いた。
「何だ、御幸」
「いや…あの、今の十三分二十秒ほどの間、何してたんでしょうか?」
 お前カウントしてたのかよ!と倉持は絶句したが相手が御幸なので止めた。
 栄純と結城はキョトンとすると、顔を見合わせのほほんと笑った。その甘い空気は一体…と眉を顰めていると、栄純が口を開く。
「にらめっこっすよ」
「ハァ?にらめっこ?」
「うす。どっちが先に相手に見惚れちゃうかって」
「「は。」」  御幸と倉持がパカッと口を開けた。見とれる。何が何に何故?
 結城は隣りで重々しく頷く。口元に浮かぶのは苦笑だ。
「俺は、絶対に俺が不利だと言ったんだが」
「えー!そんなことないです!キャプテンカッコよくて、俺見惚れないように必死だったんですから!」
「お前は可愛いからな。顔には出してなかったが、多分俺の負けだ」
「!て、哲さん…!」
 顔をぼぼぼと赤くする栄純を見て結城の笑顔が優しげに深まる。





 これはもう完全に――いつの間にかは知れないけれど――カップルの様相でした。








「って納得するかぁーっ!?」
「御幸先輩落ち着いて下さい」
「おま、降谷!何達観した顔してんの!?てか落ち着くな!緊急事態だ!」
「大人気ないですよ…沢村が幸せなら、僕、は、べ、別に…」
「涙と鼻水大洪水させて言う台詞か!」
「伊佐敷先輩?だ、大丈夫ですか?」
「ほっときな春市。ショックで身体機能が停止してるだけだよ(バキッ)(←?)」
「兄貴それ死ん…!?」





 突如大混乱をきたした部員などどこ吹く風、またほんわり照れくさそうに微笑みあって将棋に興じ始めた栄純と結城を見て、倉持はとりあえず栄純をこの場から引き離すため立ち上がったのだった。








瑞希さまより、結沢で、バカップルとそれにあてられてうんざりな周囲の人々。。
なんだかおかしなギャグになってしまってすいやせん!でもこのくらいなら原作でやっても問題ないような気がした…←
最後が倉持先輩オチなのは仕様です←
素敵なリクエストありがとうございましたv宜しければお持ち帰り下さい。







08,12,04