ふゆのまち
ちらちらと後ろを盗み見る。
危なっかしい後輩の頭がまた数メートル離れて見えて、倉持は思い切り舌打ちをした。
奴は決して小さい方ではないが大きくもないから、冬の人混みの中で頭が見え隠れして見える。
気付かない程度に歩を緩め、追い付いてくるのを待つ。
秋は確かな深まりを見せて、空の雲は遥か遠い。
冬特有の耳にきんと響く寒さが頭を熱に浮かす。
既に冬の様相を呈した街は微妙に活気づいて騒がしく、なのにこれからやってくる寒い季節を予感させる。
あの夏はもう遠く、そして冬の到来と共に確かに近付いて心を焦らせた。
ふうっと息を吐く。熱い呼気が白く染まった。
「くらもっ、せんぱっ…!」
視線を落とすと必死に人混みから這い出てくる栄純が視界に入る。
一体何がそんなに大変なのか知れないが、倉持の前で荒い息を整える栄純は、何というかまあ、胸をぎゅっと握りしめて林檎みたいな赤い顔をしていて、とりあえず掛け値無しに可愛くはあった。
「先輩、早いっすよ〜…」
口を尖らせる元気もないらしい。栄純の口から吐き出される息もまた、ひどく白い。
「お前が遅いんだろーが」
「うっ…でもちょっとは待ってくれたっていいじゃんか!」
タメ口禁止、と技をかけるのは何だか面倒だった。もしくは寒くて頭がぼんやりしているから嫌だった。理由があるならそれに縋ったっていいんだろう。(普段は虚勢を張るので精一杯なのだ)
倉持はコートのポケットに突っ込んでいた手を引っ張り出すと栄純の手を取った。
「え、」
「危なっかしい。繋いでてやるから」
ぼそりと呟かれ、行くぞバカ、と優しく頭を叩かれ、栄純はほんわり笑った。
寂しかったんだ、と、でも俺もいっしょだ、と、熱と寒さに浮かされた頭で思った。
終
凛音さまより、倉沢のほのぼの。
倉沢はあまり書いたことがなかったのですが楽しく書けました。
素敵なリクエストありがとうございましたv宜しければお持ち帰り下さい。
08,11,04