冬の魔法
冬の魔法
唐突だけれど、冬のデートは夏よりもいいものだと思う。一番わかりやすい理由としては、そばにいても暑苦しくないからだ。そりゃ、好きな人と一緒にいられるなら暑くてもいいって考え方もあると思うんだけど、やっぱり暑いとか嫌だとか、そんなこと考えて好きな人のことを考えていられないのは嫌だなって、思うんだ。
それを言ったら亮介さんは、へえ、と相変わらず笑って言って、やっぱりお前馬鹿だ馬鹿だと思ってたけど。そこで言葉を切った。バカはいろんな人に言われるけど、亮介さんに言われると他のみんなより少し傷付く。好きだからかな?
「ば、バカっすか…!?」
「どっちかって言うと、馬鹿みたいに素直だよね」
さらりと流し、亮介さんは白い息を吐き出した。
「寒い?」
「あ、俺は雪国出身なんで、大丈夫っす!」
「長野だったっけ。まあそうじゃなくても馬鹿だから風邪なんて引かないだろうけど」
素晴らしく早い毒舌に俺は、う、と言葉を詰まらせた。亮介さんの毒舌は、俺に対しては事実を並べるだけだから、余計にざっくりくる。
しばらく殺風景な公園を眺めてから、亮介さんの視点が一点に向いたまま動かなくなる。
俺もそっちを向いて――
「沢村」
「はい!」
「食べる?」
あれ、と言って指差した先にあったのはたい焼きを売っている小さな車。途端に鳴る腹の虫。
慌てて抑えたけど、亮介さんにはきちんと聞こえていたらしい。
「すっ、すいやせん!」
「いいよ。奢ってあげる」
それだけ言って、亮介さんはベンチから立ち上がり歩き出した。俺も後を追う。
夏からしばらく経って、相変わらず身長差は変わらなくて。小さな背中はいつも、なんとなく、追いかけなくちゃ、という気持ちを巻き起こした。
でも追い付きそうになると足が止まる。それ以上はいいや、って思う。
何でかわからないから聞いてみたら、亮介さんは「俺が先輩だからじゃない」とぶっきらぼうに言い放った後、でも、違うポジションだし、お前はバント以外まるで役に立たないし、と考え込んでから、言った。
「お前、俺のこと好きなんじゃないの?」
ああそうだ、きっとそうなんだよ――そう亮介さんが言ったから、俺と亮介さんは付き合っている。実際その「追い付きたいけど止まる」というのは、追い付いて抱きしめられてからなくなったから、亮介さんの言う通りだったんだろう。
冬の空気は冷たい。長野と比べたら全然だけど、肌をちくちく刺すような寒さは変わらない。
俺に合わせたりしない彼に追い付くように必死に追いかけたら、はあっと息が上がった。白い靄が現れて、顔にぶつかってどこかに行く。
あっという間に店に着いた亮介さんは、オーソドックスにつぶあんを一つだけ買ってくるりときびすを返した。
奢るって言ったのに、あれ?
俺は店の前で慌てて方向転換すると彼を追った。
「あのっ、亮介さんっ?」
「なに」
「ひ、一つっすか…?」
彼は歩きながら袋からたい焼きを出すと二つに割った。素っ気なく俺に放って、片方を口に運ぶ。
一口目を咀嚼し終えてから、高校生は金が無いからね。そう言って俺を振り返った。
食べてもいいってことだろうなって思って、俺もはくんと食べてみた。思ったよりも餡子が熱くてちょっと涙目になったけれど、とてもおいしい。
「おいしいです!」
「あ、そう」
俺の感動した感想に表情も変えず、興味なさそうにそれだけ言って、亮介さんはまた前を見た。
帰るよ。彼がそう言うので、はい、と元気よく答えた。
たとえば、長野出身だって覚えているところとか。
たとえば、俺がちゃんとついてこれる程度の早足、とか。
たとえば、お金あるのにわざわざ半分こして食べる必要とか。
それ、ぜんぶぜんぶ俺にはわかってる。ほんとうは。
でもそれは冬の魔法だから、俺と亮介さんの、ひみつ。
寒いから話したくないなんて理由で、決して口には出さない、ひみつなんだ。
終
相互記念に<R>の笹様に捧げさせて頂きます!リクは「亮沢」でした。
お待たせしてすみませんでした…!そしてお待たせした割にこんな電波な話で申し訳ないです;;
栄純の一人称って書くのがたぶん初めてで、そもそも一人称の文をほとんど書かないので何だか新鮮でした。(お前が新鮮な気分を味わってもな!)
冬の寒空の下でたい焼きを半分こする亮沢が書きたかったのです…どうぞ熨斗つけて返して下さって大丈夫ですよーorz
ではでは相互ありがとうございました!これからもどうぞ宜しくお願いしますv
09/02/24