kissing


「ふるや」
 栄純の声がしたので立ち止まって振り返ったら、栄純がぴょん、と降谷に向かってジャンプした。驚きで降谷の切れ長の瞳がまあるく見開かれた。
 栄純の頭がちょうど降谷の鼻の辺りをかすめて、栄純の両足が地に落ちる。
 思いの外垂直だったそれは別に体当たりしようとしたわけではないようで、かと言って抱きついて来てくれたわけでももちろん無いようで(それは降谷的には大歓迎なのだけれど)、降谷は訝しげに眉を顰めた。
「え、なに…?」
「え?ええ、と…」
 栄純ははっとすると首を横に振った。誤魔化しの固い笑みが浮かんでいた。
「何でも。何でもないんだけど、その」
「何でもないってなに。何でもないわけない」
「……え?」
 栄純は瞬いた。降谷を怒らせるようなことをしただろうか。
 栄純は今自分がしたことを素直に言うのは少々気が引けたので、むすっとした降谷の顔を見とめてもまだ、言い訳を何にしようか考えていた。
 自動販売機に行ってなかなか帰ってこないから探しに来た。それはきっかけであり理由じゃない。
 その他身長が低いのが悔しいから同じくらいになってみようと思ったとか、驚かせてみようとして失敗したとか、髪にゴミが付いていたとか。
 自分でも結構納得いく理由がぽこぽこ考えついていたが(つまりはその内いくつかは事実混じりだということ)、降谷は栄純から厳しい視線を外さない。
「言い訳しようとしてもだめ」
「う゛」
「だって」
   降谷は胸を張った。
「だって、君は僕のものだし」
「……そういうの、亭主関白っていう最低な夫の代名詞なんだぞ」
「人は人、自分は自分だから」
 まるで悪びれずに言う降谷に、栄純は溜息をついた。
 確かに栄純と降谷とは付き合っているから隠し事は良くないんだろうが、それにしても自分が何でも降谷の思い通りになると勘違いされてもらっては困る。
 けれど別にこのことは始めも言ったように、「少々気が引ける」という程度の話で。なら、これ以上こじらせて後でケンカ沙汰に発展するよりは素直に白状した方が楽なようにも感じられてきた。
「わかった、言う、言うってば!機嫌直せよ!」
 ならいい、と言わんばかりに降谷は頭一つ下にある栄純の頬に触れた。栄純の瞳が不思議そうに降谷を見上げるのを捕えて、そっと近寄る。
 唇と唇が触れていたのは数秒間で、栄純には目を閉じる暇も無かった。
「…ばか」
 真っ赤な顔で俯く栄純が可愛くて可愛くてこの場で押し倒してしまいそうだったが、それは何とか耐えた。それで誤魔化されても困るからだ。栄純としては誤魔化した気は微塵も無いのだろうけれど。
「で、さっきのジャンプ、なに?」
「あー…」
 栄純は目を泳がせたものの、ここまで引っ張る話でもないし、と赤い顔で苦笑しながら降谷をしっかり見上げた。
「キス、しようと思ってさ」
「は」
「そう、キス。いっつもお前がしてくるから、たまには俺からしてみようと思って。でも、やっぱり届かなくて、かっこ悪くなっちゃった」
 あはは、と照れ臭そうに笑う栄純に、聞かなきゃ良かった、でも聞いて本当に良かったと思いながら、降谷は赤い顔をてのひらで覆った。












相互記念に<グロリアスパレード>の瀬名様に捧げさせて頂きます!リクは「ラブラブな降沢」でした。
これがラブラブかどうかは非常に微妙だと思うのですが、空月の精一杯のラブラブ=栄純が積極的になる、なので、栄純から降谷にちゅーさせてみました。
返品可ですので、あちゃーと思ったら見なかったことにするといいと思います!(ぇ)
せっかく素敵絵を頂いたのに恩を仇で返してすみません;;

では相互ありがとうございました!これからもどうぞ宜しくお願いしますv







08,09,25