01. 恋愛感染メール



 ポケットの中で唸りを上げる携帯電話。
 なんとはなしに取ってみると、メールが一件着ていた。
 別に急ぎの用ではない気がする。基本、うちの部は重要なことはぜんぶ口で伝達するから。
 でもなぜか気になって、すぐに開いて確かめてみた。(みんなにはふつうすぐ確かめるもんだって言われたけど、めんどくさくて…)



 すると、



「あ、」



 思わず漏れた声。今部屋には誰もいないのに、慌てて口を押さえる。
 メールの差出人は――『沢村栄純』。
 あいつが僕にメールを送ってくるなんて、初めてだ。それこそあいつはあんなまっすぐな(ボールは散々曲がるくせに、そこだけはまっすぐな)性格で、言いたいことは面と向かって言わなきゃ気が済まないほどで。
 でも、僕に用事って、なんだろ…。
 正直心臓がうるさくて仕方なかったけれど、頑張って本文を見てみる。(何で僕頑張ってるんだろう?)



『いざってときの連絡網の確認だってさー。次は春っちだかんな!ちゃんと送れよっ!』



 …これだけ?
 いくら画面をスクロールしても、本文はそれだけ。
 素気ない…。
 いくら連絡網だからといってもあまりに素気ない文面に、ため息ひとつ。
 一度携帯を閉じて――でももう一回、開いた。
 受信ボックスにちゃんと残ってる『沢村栄純』の文字。
 確かにたったこれだけの文だけれど、あいつからもらった初めてのメール。
 それだけで、あたたかくなる、こころ。



「――大事にしよ」



 うんそうしよう、とひとつ頷いて、ベッドに寝転んだ。














「ふーるーやーーー!!」



 翌朝朝練で顔を合わせるなり、沢村は怒り心頭、血管が破裂しそうな勢いで僕に迫ってきた。
 あれ…何かしたっけ?



「お前、何で昨日のメール春っちに回さなかったんだよ!?」
「ああ…」
「まさか忘れてたとか言うんじゃないだろーなっ!」



 お陰でちゃんと回してなかったと疑われた、そう言って沢村は地団駄を踏んだ。
 そっか…それは悪いことを。



「うん、ごめん」
「ああ、その通り…って、え?」



 すぐに謝ったら沢村がきょとんとした。黒い目をぱちくりさせて、かわいいな、と思った。



「一年並べ!もたもたするな!」
「うわっ…グラサンもう来てるっ!?」



 監督の声に沢村はびくんと肩を震わせて、不満げに僕を見ると言った。



「ったく…次はちゃんと回せよ!」



 ふんっ、と鼻を鳴らして走っていってしまう。
 せっかく沢村から話しかけてくれたのにもったいなかったな、と思って。
 その背中を追いかけながら、もう一度謝る。







 ごめんね。たぶん次も、その次も、僕はメールを回さない。



 君からもらったこの気持ち、他の人に感染させたくないんだ。





08,3,6

戻る