先ず、首筋。それから肩。
 小さく振るえた身体に触れながら、下がって腹、胸。上がって額、耳朶、瞼、頬、鼻。
 唇は最後だ。
 荒い息を抑えつけて見下ろすと、真っ直ぐな黒い瞳にかち合う。
 すべてを見透かされているような、鏡のようなまるい瞳。その奥に降谷を映し、瞬く。
 小さな唇が蠢いた。空気が動いて言葉が出る、出る、
「ふる――んッ」
 降谷に唇を塞がれて栄純はくぐもった声を上げた。名前を呼ぼうとしただけなのにと一瞬降谷を睨み付け、けれど抵抗はしない。
 柔らかな唇をじっくりゆっくり堪能してから甘噛みした。ゃ、と栄純の口から甘い声が漏れて、降谷は細い首筋にかじりつく。
「あっ…!?」
 黒い双眸はきっと驚きで零れ落ちんばかりに見開かれている。この位置では見えないのが残念だと頭の片隅で思って代わりに、出来損ないの楕円の月が彫られた首筋を見下ろした。皮膚の下の薄い赤が見え隠れする。
 鎖骨に舌を這わせて柔らかい所を順々に吸い上げてゆく。そのたびに荒い甘い息が栄純の口から漏れた。吸った所には大小の赤い痕が点々とし、栄純の日に焼けた肌に綺麗に映えた。
 耳裏の柔らかい肌に唇を寄せてやはり赤い痕を付ける。花弁のように舞った赤が艶めく。
 栄純はあらゆる場所が疼いた。痕の一つ一つが、目に見えないものもあるが確かにそこにあることを主張して痛んだ。
 降谷は肌に痕を付けたがる。何かにつけて、付けたがる。噛み痕、キスマーク、引っ掻き傷。どれも淡い赤と共に栄純に残った。
 ――おかしい。こんなのきっと間違っている。
 ――でも。
 降谷は思った。(栄純はそれをおかしいとも間違っているとも思いもはしないのだ。きっと)
「――ぼくの」
 降谷が深い声でそっと呟いた。
「ぼくの、だから、なんだ」
 鎖骨の上に付いた真新しい痕に触れる。熱くて、ひんやりした。
 栄純が何かを言う前にまた唇を、今度は乱暴に塞いだ。





正しいって言ってよ、ねぇ
 降沢




08、11、21