走る。走る。走る。
 後ろに気配を感じながら、
 横顔を盗み見て、
 目の前を走る背をひたすら追いかける。
 嫌なのは背中を追いかけるときだ。置いていかれたような、興味ないと言われてしまったかのような気持ちになるから。


「はぁっ…!」


 今も前を走る栄純は、降谷の存在を無視しているかのようにただひたすら走る。
 時折かすかに上がった息が鳴った。栄純の呼吸が降谷の喉を刺激する。喉が渇いたのか何か言いたくなったのかはわからない。
 土を踏み、蹴る音が強く響く。


(沢、村、)


 心の中で呼んでも何時までも届かない。彼は振り向かない。
 そう、降谷を振り向くことはないのだ。
 だから横に並ぶか前を行くかしか、降谷の選択肢には無くて――。


「わっ」


 世界が土色一色になると、身体が舞った。足がもつれたらしい。
 地球に叩きつけられる寸前、栄純の声がした。


「バカ、前見て走らないからっ…!」


 君を見てた、と言った瞬間、顔面を強打した。



 ああからまわり。





空回りするペダル
 降→沢




08,07,05