霖雨(クリ沢)


長い、長い。
長い故に、ただ清い行為。
続ければいつかと思えば、先はまだ長い。
だから努力は惜しまない。ただ、あの場所に戻るために。
思い通りにならない身体を叱咤し、黙々と粛々と。


――クリス先輩。


時折、瞼の裏に輝く光を見ながら。


「優、どうかしたか?」
「…いや」


父親の言葉に頭を振ってクリスは苦笑する。
まだまだ続く長い暗い道のりを、噛みしめて。





「いくらでも、頑張れそうな気がするんだ」





(止まない。まだ、止まなくていい)








時雨(御沢)


雨なんて嫌だってお前は言うんだろう。野球できない。走り回れない。なんだか気分が落ち込むし、かと言ってどうすることもできない。でもプラス思考で考えるとどうだ?例えば今日の練習試合。俺はすんげーポカミスでカッコ悪いことになって、お前にそんな姿見られちゃったかもしれない。他の――例えば倉持なんかがスーパープレーをかましやがって、お前ちょっと惚れちゃったかも。





なあ沢村。そう考えるとこの雨、多少はよく思えるだろ?





(あめあめふれふれざあざあざあ!!)








村時雨(降沢)


「沢村」
「ん?」


目を上げると降谷と目が合った。
降谷はぼんやり栄純を見ていて、その瞳の色が普段と違っていた。


「ねぇ、沢村」
「だから、なんだよ?」
「好きだよ」
「……知ってるけど」


栄純は俯いた。今ので喜んだりなんかしてないと自分に言い聞かせつつ。


「そう」
「そーだよ。で?」
「それだけ、かな」
「……」


なら黙ってればいいと思った。どうせコイツは何にも考えないんだ、例えばそんな言葉ひとつで自分がどんな気持ちになるか、なんて。








――うまく、いかないな。


降谷はふう、とため息をついた。向こうから栄純が睨んでくる。
ときどき栄純に対する愛しいという想いが溢れ出しそうになるのだ。爆発しそうに 盛り上がってしまったそれを持て余し、伝えたくて言葉にする。
けれど結局栄純には届かない。自分がどれだけ栄純を好きで、愛していて、欲しいと 思っているかなんて。
今は、言ってちょっとすっきりしたけれど。


「何がしたいんだよお前は」


顔を近づけて尋ねる栄純に、首を振る。自己完結と言われようと、伝えたいことの概 略はそういうことだ。
栄純は拗ねてしまったのか、唇を突き出して、そういえばどこか赤い顔を背けて。


――可愛い。


むくむくと心に湧き上がる想いは、やっぱり同じだ。


「沢村」
「…なんだよ」
「大好き、だよ」
「…っ、こ、の、」


バカ!





ビンタは流石にちょっと痛い。





(繰り返し訪れる愛しさ)








驟雨(金沢)


「金丸っ!」
「…何だよ」
「何でもねーけど?」


じゃーまた明日な、なんて言って、駆けてゆく。


「……」
何にもないなら声かけるなとか。
何にもないなら近寄るなとか。
何にもないなら――


「んな楽しそうに、笑うんじゃねーっつの」





跳ね上がった心が、落ち着いてしまうだろう?





(好きなだけ振り回して何もなかったみたいに!)








甘雨(亮沢)


つぅ、と零れ落ちる涙。目尻から頬を伝い地へ落ちる。
沢村の涙は綺麗だ。
激情を、歓喜を、悲哀を込めて溢れる涙は、誰にでも魅力的に映ってしまう。
本人の意志、ではないのだろうけど。


「うっ…ひぅっ…」
「沢村」
「は…い」


目尻に溜まるそれを、舌で舐め上げる。


「ひゃあっ!?な、亮介、さんっ」
「……」


甘い。 甘く脳髄を犯すこれが、綺麗、だって?


「泣くなよ」
「すいやせん…ひぐっ、」


首根っこを掴んで強引に引き寄せる。


「それは、俺のものなんだから」





沢村が不思議そうに首を傾げると、涙が散った。





(糧。俺のものだという、糧)








01:霖雨 幾日も降り続く雨

02:時雨 (しぐれ)秋の末から冬の初めにかけてぱらぱらと通り雨のように降る雨
      (じう)ちょうどよいときに降る雨

03:村時雨 ひとしきり激しく降ってはやみ、やんでは降る雨(冬)

04:驟雨 さっと降って、すぐやんでしまう雨・通り雨

05:甘雨 草木を潤すよい雨・慈雨









08,5,6

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