ハイ、バトンタッチ☆ 〜倉持編

 今日も今日とて沢村栄純は寝坊だ。というか、まだ寝ている。
 まあ最近練習も頑張ってるみたいだし?大目に見てやらないこともない。
 しかし、朝練というヤツは待ってくれないわけでして。


「ったく、しゃーねーな…」


 同室の倉持が舌打ちをしながら沢村の寝るベッドに近寄る。初めての朝練で酷い目に合ったので、さすがに今回は起こさなければ。
 まったく先輩を目覚まし代わりに使うとは後でタイキックだな、ヒャハ!と内心で笑い、けれどなんだかんだ言って良い先輩でもある彼は沢村を起こしにかかろうとした。


「おい、さわむ…」


 しかーし。


「ん…」
「!」


 沢村はすかーとマヌケ顔で眠っていたが、倉持が声をかけた瞬間、にっこり、それはそれは可愛らしく微笑んだのだ。
 同室で同じ一軍。いっしょに過ごす時間は多く、寝顔だって他の奴らよりも見慣れているはずなのに。


 ――なんだよこれ…かわいすぎねー!?


 自然と顔が真っ赤になっていた倉持はハッとしてぶんぶん首を振った。
 とりあえず起こさなければ。そう、起こせばいつも通りのタメ口・生意気な後輩なのだ。
 うわあ可愛いバックに花が飛んでるとか思いつつも何とか沢村に顔を近づけ――


「なーにやってんの?倉持ー」
「っ!?」


 背後から、めちゃくちゃ楽しそうな声が響く。
 振り返らずともわかる、この声の主は。


「御幸、てめーいつの間に…」


 音もたてず5号室に侵入していたのは御幸だった。もう朝練準備は万端といった格好で、ニシシと笑って倉持を見やる。


「えー?沢村を襲おうとしたところから?」
「いつ襲おうとしたってんだこのエロ眼鏡!」


 食ってかかる声が普段よりも弱冠落としたものであるのに御幸は気づき、不思議そうに首を傾げる。いつも周りを気にせず大声なのは沢村と似たり寄ったりなところもある倉持だというのに、いったいどういう風の吹きまわしだ?と。
 倉持は沢村を振り返り、やっぱり幸せそうな顔のままなのを見てとって白旗を上げた。無理だ、これは。
 さっき御幸が声をかけていなかったら、本気でキスくらいしていたかもしれない…いやマジで。
 倉持ははあっとため息をひとつ吐き出すと、カバンを手に取りドアへ向かった。
 すれ違いざま御幸に、至って真剣な顔で――少々汗をかいていたが――吐き捨てる。


「沢村、起こしてから来い」
「は」
「俺、先行くわ…」
「え、ちょ、」


 頭を抱えつつ逃げるようにその場を去った倉持が倉持らしくなく、御幸は反対方向に首を傾げる。
 いつも5号室前を通ると聞こえてくる雄叫びのような叫び声のようなものは沢村の声だ。どうせ起こすときも技でもかけてんだろ、と思っていたのだが。
 仕方ないので沢村に向き直った御幸は、目を大きく見開いた。





次回は御幸のターン☆




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