それは夕食時の食堂で。




「栄純くんは、どんな子がタイプなの?」




 その爆弾発言は、投下されたのだった。







君はエゴイスト?

「ぶっ!?」


 質問された当の張本人は天然鈍感で有名だったが、さすがにこの発言には驚いたらしく口に頬張った大量のご飯を飲み込み切れずげほごほとむせた。
 質問した当の張本人である小湊春市はそんな栄純にごめんねと声をかけたものの、大して悪びれる風はない。さすが“あの”小湊先輩の弟だと皆が思った。
 皆――そう、この会話は栄純と春市だけではなく、食堂中の注目の的となっていた。
 何と言っても沢村栄純は天然で鈍感、馬鹿で単純、熱くて涙もろくて、それでいてとにかく可愛いことで呼び声高いエース(候補)なのである。中学の頃からその片鱗は見せていたが、ここ青道高校でもそれは変わらず、いやむしろ大きく開花したといっても言い過ぎではないほどに皆に愛されていた。
 そんな栄純の好きなタイプ――それが気にならないはずがない。
 食堂中が聞き耳を立てているのを春市は気づいていたが、それは想定の範囲内であったので気にしない。
 むせてどんどん胸を叩き、なんとか落ち着いた栄純は困ったように眉根を寄せて春市を見た。あ、可愛い。と春市に思われていることなど露知らず。


「び、ビックリさせんなよ春っちー…」
「あはは、ごめんごめん。だって気になったからさ」


 で、どんなタイプ?そう春市が再度口にしかけたとき、盆を持った降谷が栄純の隣りに座った。ちなみにそこはさっきから他の一年生達がしのぎを削ってなんとか座ろうとしていた場所で、つい数瞬前に金丸が勝利を収め今まさに栄純の隣りに座ろうとしていた…のだが、あっさり降谷に取られ今現在真っ白になって固まっている。ドンマイ。(by.降谷)


「僕も気になる…」
「えー、お前も何言ってんだよ」


 無表情なようでいてしっかり沢村のこと気にしてますオーラ全開な降谷に二軍メンバーからキツい視線が送られるが、天然怪物君は素知らぬ顔でじっと栄純だけを見つめる。


「だって、きみってあんまりそういうこと話さないじゃない。あの幼なじみ以外じゃ女の子の名前も聞かないし」
「なっ…若菜はほんと、単なる友達だって言ってんだろ!ほんとだってば!」


 むぅ、と頬を膨らませてぎゃんぎゃん言い放つ姿は気持ちいいほどまっすぐであり、とっても可愛い。必死になって頬が紅潮しているのがまた可愛い。


「そういうお前はどーなんだ、降谷!好きなやつとかいねーの?」
「…いないこともない、かな……」
「うえっ、マジ!?」


 栄純は心底驚いているが、周りは顔を引きつらせつつ「うん、お前だよ、お前」と心中で呟いた。降谷の栄純好きはバレバレである。というか本人に隠す気がさらさらないらしく、常に栄純のことばかり気にしているのだから当然と言えば当然だ。


「ほー、面白そうな話、してんじゃん」
「ヒャハハ、で、どんなんが好きなんだよ?お前」


 後ろから突然かかった声に栄純が振り向くと、そこには御幸と倉持の姿が。食事はまだ終わっていないのだが、いつの間にか席を移動してきたらしい。
 更に。


「こるぅあ沢村!と、とっとと言ええ!」
「純てば落ち着きなよ。ん、沢村、どんな子が好きなわけ?」
「うむ…キャプテンとして、気になるな」
「沢村。支障がないんだったら、言った方がいいぞ」


 伊佐敷、亮介、結城、クリスに続けて言われ、既に栄純の頭の中はパンク状態だ。
 まずどうして皆が自分の恋愛事情にここまで興味を示すのかがわからない。そして興味を示しているのが一軍メンバーばかりなのが更にわからない。
 勿論それ以外のメンバーも気にはなっているのだが、一軍メンバーが恐ろしくて栄純の傍に近寄れないのである。また調子に乗って「誰が好きなんだよ」と騒ごうものなら様々な危険人物の標的になること間違いなし、であった。
 そしてここまで彼らが栄純の好きな人、もしくは好きなタイプを気にするのは、皆が栄純のことが大好きで、隙あらば虎視眈々と狙っているからである。
 また実際問題として栄純の好みのマネージャーの入部はできるだけ避けたいなど結構切羽詰った実情も絡んでいたりした(やだなそれ…)。
 でもそんな皆の思いなどこれっぽっちも知る由もない栄純は、どうせなら投球やバッティングや守備について聞いてくれればいいのに、と拗ねて、唇を尖らせた。その仕草にハートを打ち抜かれて周りで倒れ伏している輩がいるのにもやっぱり気づいていない。
 一軍メンバーも可愛らしい仕草にだいぶどっきゅんキたのだが、ここは鋼の精神で耐える。


「好きなタイプ、ねえ…」


 栄純が珍しく思案するように呟いた。皆ごくりと喉を鳴らす。
 別に「かっこいい御幸先輩v」とか「頼れるキャプテンっす!」とか「剛速球を投げれる降谷、かなー…?(上目遣い)」を求めているわけではない(当たり前当たり前)。しかし、やはり好きな子の好きなタイプが気になるのが恋する者の当然の反応だろう?
 話を始めた春市はもちろんのこと、その場の全員が固唾を飲んで栄純を見つめた。
 栄純は真剣な顔で考え、やはり困ったように顔を上げる。


「うーん…お恥ずかしながら俺、そういうのあんま考えたことなくって…」


   頭をかきつつ栄純は言い、へらりと笑った。




「っていうか、好きになったらその人が好きなんだと思います!タイプとか関係なく!」



『!』





 その場にいた全員が、表情の変化に差はあれども驚いた。
 ああ、確かに栄純らしい、と皆が思い、けれどさすがにここまでまっすぐな答えが返ってくるとは思ってもみなかったのである。
 そしてその笑顔がやっぱり誰よりも輝きを放っていて。みんな、それに見惚れてしまった。
 しかし、栄純はそれで話を止めなかった。今度は一転恥ずかしそうにちらりと春市に視線を送る。普段余裕な春市もさすがにどきりとして、顔が赤くなった。


「でもな、春っち。俺さあ…」
「う、うん…」
「なんてゆーのかな?すっげーヤなやつかもしんないんだ」


 困ったように言う栄純に、春市は首を傾げた。こんなにいい子の栄純が、ヤなやつ?
 それに突然話が変わったが、コレは一体どういう脈絡だったのだろう?
 栄純は周りから浴びせられる視線にますます顔を赤らめながら、爆弾を落とした。さっき春市が投下したものの、数倍の威力のあるやつを。





「だってさ、だってさあ…?俺、えごいすと、ってゆーの?」
「たぶん、好きな人とかできたらさ?俺、その人のことしか考えられないと思うし」
「俺のことだけ見てほしい、って思っちゃうだろうし、俺のことだけ考えてて、って言っちゃうと思うし…」
「ぜーったい、ひとりじめ、したくなっちゃう、からさ…?」





 あー俺ってヤなやつなのかな、やっぱりー!?
 そう言って頭を抱える栄純を、周りは頭を抱えたいのはこっちだと言わんばかりに見つめていた。


『うわああああ栄純くんてばかわいすぎる…っ!』と春市が。
『沢村…じゃあ、僕のこと、ひとりじめとか、思ってくれるのか、な…』と降谷が。
『やっべー何コレやっべー!可愛い連れて帰りたいもう!』と御幸が。
『ヒャハ…何言ってんだよこのアホ!俺のことだけ見てほしいって、おま…!』と倉持が。
『な、なななななな○×$%●!?』と伊佐敷が。
『へぇ…まあ、いずれお前も、俺のことだけ考えるようになるからね?』と亮介が。
『俺のことだけ考えてて俺のことだけ考えてて俺のことだけ考えてて…』と結城が。
『お前らしいが…さすがにちょっと発言は控えさせないとな…?』とクリスが。


 それぞれ心の内で思っていることなどやっぱり天然鈍感馬鹿単純熱血な栄純にわかるはずもなく。





「ほら、俺は言いましたよっ!今度はみんなの教えて下さいっ!」





 きらきら瞳を輝かせてそう言う栄純に、「だからお前だってば」と言える日は、まだ、遠そうである。














 初めての?栄純総受け話はとっても楽しくかけました。
 こういう爆弾発言で周りをとにかく翻弄しちゃう栄純が大好きですv




08,3,6

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