くう。
 心持ち高めの不思議な音が聞こえたので、真田は下を見た。
 真田に寄りかかっていっしょに雑誌を見ていた栄純の後ろ頭が見えている。
「…おお」
「くー…」
 いつの間にか膝に頭を乗せて熟睡していたらしい栄純に、真田は目をまるくした。珍しいこともあるものである。雑誌をそばに置いて、真田は栄純の顔を覗き込む。あどけない寝顔が少しだけ見えて、思わず頬が緩んだ。
 息が吹きかかりそうな所まで近づいたまま、真田は口を開く。
「沢村」
「んぅ…」
「…栄純?」
「う…ん…?」
「あ、答えた?」
 もぞもぞと膝の上でまるくなる栄純から慌てて顔を離し、真田は苦笑する。マウンド上ではあんなに戦うに相応しいライバルなのに、この少年は風のようにするりと心に入ってきて、野球を出ると大切な大切な弟分になってしまう。
 弟分。そんな言い訳みたいな言葉が、いつまで保てるだろうか。
 無理っぽいなあと思って栄純の髪に指を通した。指の間の皮の薄いところに当たってくすぐったい。
「かわいいな」
「むぅ…?」
「すっごくかわいいんだぜ?お前」
「真田先輩?」
 背後から突然かけられた声に、真田はぐるりと振り向いた。
「お、雷市」
 その顔が強張っていたことに雷市は首を傾げ――雷市はその性格・気性から鈍感だと思われがちで本人もそう勘違いしているが、本当は相当カンが働く――真田の膝上の栄純に気付き、手の盆を落としそうになった。
 盆の上には三人分の麦茶。父親に茶うけは無いのか、今日はせっかく栄純が来るのに!と文句を言ったものの、ウチにそんなものはないと怒鳴られてしまった。雷市にとっては、敵校であるものの面倒見が良く面白いので、轟家への栄純の来訪はとても嬉しいことである。けれど雷市はいつも、何故真田もいっしょにやって来るのかいまいちよくわからなかった。
 真田はフイ、と顔を逸らす。何と言われるかわかっていたからだ。
「真田先輩ずりー!!」
「う゛」
 麦茶の盆を置いて駆け寄ると、雷市は栄純の顔を覗き込む。先程の真田と同じようにどんどん近付いていく雷市の顔を、真田の大きなてのひらが押し止めた。
「ふぎゃっ!?何すんすかっ!」
「そりゃこっちの……いや、とりあえず黙れ。栄純が起きるぞ?」
 雷市は頬を膨らませつつも栄純から離れた。栄純の頭に乗った真田の手を見て悔しそうに唸る。
 先輩は先輩で大切だが、栄純は違った大切さなのだ。だから今のように、栄純を大事にしている真田を見るとなんだか、ものすごく、もやもやする。
 麦茶のコップを手にして喉を鳴らして飲んだ。コップを盆の上に戻してしばし逡巡し、正座する。
 手を床につき勢いよく頭を下げて、
「真田さん!」
「何だ?」
「代わって下さい!」
「ダメ」
「……!」
 土下座も効かないとは、と雷市は肩を落とした。
















08,09,14