潔癖症の彼




 どういう経緯でそんな話になったのかは覚えていない。
 が。
「潔癖症なんだよ」
「ケッペキショウ?」
 手が汚れるのが嫌なんだよね。
 そう言って亮介は微笑んだ。彼のことをよく知る人間が見たなら、その「手を汚す」というのが何を差すのか思い当ってしまったかもしれない。まあいわゆる他人にちょっと意地悪をしてやる、ということだが、彼の場合その「ちょっと」が概ねちょっとではなかった。
 ただ目の前の一年はそこまで頭が働くはずもなく、更に彼の言うことには逆らわない方がいいという点だけ厳密に守っていたので、その心配はなかった。
 栄純はしばらく考え込み、何考えてるの、という彼のドアップで我に返った。
「なに、随分余裕じゃあない?栄純」
「わっ…そ、そんなことっ…そんなわけじゃ、ないんすけど」
 栄純はぬるっとした感触に顔を顰めながら首を傾げた。
「潔癖症なら、何でこんなことするんすか?」
「……」
 亮介は栄純をまじまじと見、ぐちゃりと濡れた自身の右手を見て、大いにため息をついた。







「潔癖症だって言ったよね?」
 事後に亮介はそう宣言し、だからあんまり出さないでよね、と至極無茶な注文をした(出させているのは彼だし、出さなかったらそれはそれで怒るだろうに)。
 栄純はきょとんとした顔で彼を見上げ、自分の身体にかかったものをまじまじと見つめ(天然って恐ろしいと亮介でさえ思った)、首をこてんと傾げた。
「じゃあやっぱり、なんでこんなことするんすか?」
「……もう一回しないとわからない?」
 栄純は真っ赤になって訳もわからず首を振った。





(※情事の際のお話)







08/10/14