「栄純、次オイラコーラね、コーラ!」
「うるさい!一回でわかるわっ!」
怒鳴って二人分のコップを手にジュースバーへ走っていく栄純を眺めて、鳴はご満悦である。
何て言ったって、好きな子と過ごせるランチタイム。その好きな子は他校なのでなかなか会えないのだからなおさらだ。
栄純はとても可愛い。見た目も性格も、投げるボールでさえ好みなのだ。
後付け?そんなはずはない。だってコレは正真正銘の、
「運命だなあ…」
「は?」
すぐ目の前で呆れたようなイラついたような相槌を打たれ、ニコニコ顔の鳴が一瞬で表情を変えた。目が座り、唇が軽く結ばれる。
すぐ目の前――正面で肘をついてこちらを見る御幸の顔は、とても友人に対する普段の冗談めかした笑顔ではない。眼鏡の奥の瞳が冷たく鳴を睨みつける。
鳴は肩を竦めた。
「何、怒ってんの?いーじゃん別にパシリに使ったって。一年なんだし」
「それはいいけどよ。名前呼びは、」
「ああ、えーじゅんって?」
鳴の口から栄純の名が出ることが本当に嫌で堪らないのだろう。眉の辺りの筋肉が動いたのに気付かない鳴ではなかった。
唇を突き出し、拗ねる風を装っておく。
本当は、栄純が持っていったもう一つのコップが当然のように御幸のもので。聞かなくても、栄純は御幸の好きなものを知っているということで。
だからコレは、他校でなかなか会えないというハンデをちょっと引き下げているだけだ。
「俺、悪くないのに――」
「――お前」
御幸が本気で鳴をファミレスから追い出そうと腰を浮かせたその時。
「ハイ、コーラ!それとアイスコーヒーなんだろアンタは」
いっつもそれしか飲まねーもんな、とテーブルにコップを荒々しく置いて、栄純はこちらを凝視する二人を見比べ首を傾げた。
先に硬直状態から抜け出たのは鳴で、ハッとするとニッコリ笑ってコップを取る。
「サンキュ、栄純!愛してるー♪」
「えー、アンタに愛されても……って、何すか?じっと見て」
栄純は妙に真剣な顔の御幸に眉を顰めたが、鳴の明るい声が視線を戻した。
「ああ、ミユキセンパイはね、ショック死中〜」
栄純は胡散臭そうに鳴をまじまじ見つめた。
「はあ?何だよその…御幸先輩って?」
「ん?栄純とおそろい」
次の瞬間、眼を大きく見開いて、視線で「死ね!」と言ってきた悪友に、「お前がな!」と鳴は大爆笑した。
08,09,13