レクイエム




「沢村、起きろー」
「む〜…」
「こんなとこで寝てると風邪ひくぞー」
「ん〜…」
「…さわむらー?」



「クリ…ス、せんぱ、ぃ…?」




「…よい、せ」
 御幸はグラウンドの隅で寝転がっていた栄純を背負って歩き始めた。ずしりと背中にのしかかった重さに、成長したなあって俺はコイツの親父か、と自分にツッコむ。
 御幸の背に頬をつけて、栄純はよく眠っている。もう妙な唸り声も上げていない。
(熱心…っていうより、無心、か)
 時々御幸ですら恐ろしくなるほど野球に情熱を費やすこの少年は、野球を通してしか他人を見ることができなくなる時がままある。
 それでいいのだ。青道にいる以上は。
(でもクリス先輩)
 優しい彼に言えば、きっと哀しく笑ってくれるのだろう。
「可哀想っすね、俺達」
 御幸は目を細めて夜空を見上げた。
 起きないように気を付けながら背負い直すと、栄純はその背にぎゅっとしがみついた。







 間違えられたのは御幸だけじゃなくてクリス先輩もなので、どっちも可哀想なんですよ、という話。








08,09,13