「それ、ほしいの?」
栄純が店の前で横に視線を向けると、にやにや笑ってこちらを見つめる鳴の姿があった。
それ、が何を意味しているかなどは明白だったが、それにしたって聞き返さないわけにはいかない。
「な、何、が?」
「え?ずっと見てるから、ほしいのかと思って」
それ、と指まで差されて栄純は閉口した。鳴が指差したのは綺麗な飾りのついたピンク色のランジェリーで、店先のスタイルのいいマネキンが纏っているものだった。
栄純の未熟な肢体にはどうやっても似合わない、きれいなそれ。
年頃になれば気にならないはずがない。けれどそれを指摘されて恥ずかしくないわけもなかった。
ぷいっと色づいた頬を背けてしまう栄純ににこにこ笑って鳴は反対側に回ってその黒い瞳を見つめる。
「ほしいんならもっと近くで見ればいいのに」
「うるさいっ。寄んな!」
「ふーん」
鳴は珍しく素直に栄純から顔を引き剥がすと、物珍しそうに店内を見渡した。蛍光色やパステルピンクに彩られたランジェリーショップはとても不思議な存在に映る。
別に気にする必要もないのにそれらを鳴に見られていると嫌だった。そんな好奇心たっぷりな目で見るなと言おうか言うまいかうむむと考え込んでいる内に、鳴はああ、と手を鳴らす。
くるっと栄純を振り返って手を出し、むんずと触った。
その、小さな膨らみを。
「!?」
「うー…やっぱAだよね!」
うんうんと謎の納得をしながらマネキンのすぐ横に掛けてあるブラの中からAカップを探し当てて差し出した。満面の笑みと共に。
「ほら、どーぞ!」
「っ!」
栄純のビンタが鳴り響いたのは言うまでもない。
08/11/16