スキとキス
「春っち来てますか?」
顔を覗かせた沢村に悪戯心を刺激された。
ちょっと困らせてやろう、と思っただけだったのに…
「沢村、ちょっと座って」
床を指すと首を傾げながらもちょこんと座る。
(素直だね…)
沢村は御幸と倉持以外には普通に言うことを聞く。
特にクリスの言うことは絶対。
まるで御主人様と犬。
(番犬にはならないけど…)
真っ直ぐでなにものにも動じない、名前の通り純粋な心の持ち主。
(今時、こんな子がいるなんてね…)
天然記念物的な一年生に興味が湧いた。
しかも、弟と仲が良い。
目立つことを嫌う弟が、放っておけなくてついつい世話を焼いてしまうくらいな奴なんて、相当なものだと思う。
「お兄さん?」
首を傾げたまま、椅子に座って足を組む俺を見上げる。
(こういう仕種が、純や哲までも引き寄せてしまうのか…)
黒い大きな瞳がじっと見つめてきて、心の奥がキュンとなる。
沢村にとっては無意識の行動、けれどもコッチにとっては…
(天然小悪魔とは、沢村のことを言うんだろうね…)
思わず笑ってしまう。
「あ、の…?」
何も言わないで突然笑った俺を不安げに見上げる沢村。
「沢村は、春市のこと好き?」
突然の質問に、一瞬きょとんとした沢村だったけど、すぐに笑顔になって「大好きです!」と言った。
迷いの無い、キラキラした笑顔…
あまりに眩しくて、目を細めて見つめると「お兄さんも、好きですよね?」そうでしょ?と確信した笑顔で返された。
確かに、春市は大事な弟だけど、『好き』とは違うんだよ。
それを、この子供は理解できるだろうか…。
「うん、でもね…」
僕は見上げてくる沢村の頬を両手で挟んだ。
「僕は沢村が好きなんだよ…」
大きな黒い瞳をさらに大きくして、沢村は僕を見る。
(驚いてるの?)
騙し討ちは卑怯だとわかっていたけど、口の端が上がるのを止められなかった。
無防備な、薄く開いた唇に、自分のソレをそっと重ねる。
閉じることのない瞳をじっと見つめたままのキス。
瞳の中に一瞬怯えの色が見えて、仕方なく離れた。
「好きって、こういうことだよ…」
僕は、表情も態度も、何も変えずに言う。
「あっ、えっ…そのっ…」
急に我に反って吃り始めた沢村は、顔も首も真っ赤。
きっと、そのシャツの下の肌も真っ赤なんだろう。
(見てみたいけど…それはまた今度…)
トマトのように赤く熟れた沢村はオロオロと俺を見上げるだけで、拒絶の色が見えないことに僕は薄く笑った。
「ねぇ、やっぱり春市が好き?」
同じ質問を繰り返す。
けれども沢村は同じ返事を返せないでいる。
(簡単に『好き』なんて口にするものじゃないよ)
僕は沢村の頭をクシャと撫でた。
「春市と仲良くね」笑って言うと、無駄に力強く頷く。
弟の大事な親友、けれども僕にとっても大切な…。
ガチャ
ドアが開いて同室の二年生が戻ってきた。
「帰っていいよ」
僕は沢村の頭をポンと一叩きした。
「う…あのっ…」
立ち上がりながら『好き』と言われたことへの返事をどうすればいいのか戸惑う沢村。
(しばらく悩めばいい…)
『好き』の意味を、キスの意味を。
そして僕も…。
ただ『好き』だったのに、不用意に触れてしまった沢村の甘さをもう一度感じたいと思っている。
(どうすれば、いい…?)
END.
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リクエストをいただいてから○ヶ月…お待たせ致しました。
リクエストは亮介×沢村だったのですが、亮介→沢村になってしまいました…。
「好き」の意味をわからない沢村にお兄様の教育的指導です(笑)
どうぞ、貰ってください。
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「Triple Crown」のKO+様から頂きました。空月のリクは「亮沢」でした。
はい、まずは落ち着いて深呼吸〜。すーはー。
さて。
もうっっっっっ!!ほんっとうに萌えましたありがとうございますありがとうございます!!!(狂喜乱舞)
どうしましょう全世界に向かって嬉しさを叫びたいです!
亮介さんかっこいい…栄純かわ…!かわゆ…!
亮→沢も大好きなのでとても嬉しかったですvvv
「沢村の甘さ」もお兄さんの教育的指導もツボにガンガン入っております!ますます亮沢大好きになりました☆
KO+様、素敵なお話ありがとうございましたーvvv
これからもどうぞよろしくお願い致します!
08,9,12