相互に不完全に作用する
「沢村」
仕掛けるのは降谷から。
けれど栄純も待っていたのだから同罪、で。
「…いい?」
「ん」
頭一つ高いところにある降谷の顔を見上げて、素っ気なく言って目を瞑るだけ。
それだけの共犯。
降谷は栄純の頬に手を添えて、万が一にも逸らしたりしないようにしっかり栄純の唇を見つめて、キスをする。
――ゲーム、しない?
――ゲーム?
嫌がったり怖じ気づいて唇を離した方が負けの、至極単純なゲーム。
負けず嫌いの栄純なら引っかかりそうな気もした。けれどあまりにもすんなりやわらかなそれを差し出されて、降谷の方が困惑したのも事実だった。
例えば御幸やクリスにも、望まれたら同じことをしてしまうんだろうか。
(嫌すぎる)
唇の間に舌を差し込む。すんなり受け入れる栄純の口内は熱い。
ぞくりと全身に快楽が走って、ますます追い求めて栄純の舌を捕らえる。
「んっ…」
栄純の鼻にかかった声がして、脳髄が甘く刺激された。
好きだなんて言えない。これはあくまでゲームだから。
だからせめて、出来るだけ長く。
長く。
栄純は舌を絡めとられて好きなように翻弄させながら、いつ終わるんだろうと思ってちょっと悲しくなった。
これはゲームだから。それ以外の何ものでもないのだから。
この負けず嫌いのバカ降谷が、バカな頭で考えた嫌がらせみたいなゲーム、だから。
舌を軽く優しく甘噛みされて、身体の奥が疼く。
「あ…んぅっ…!」
自分のじゃないみたいな声がして、栄純は目を瞑る力を強めた。
悔しいから身体に力が入らなくなっても、栄純は降谷に寄りかかったりしない。
恋人とかじゃないから。
(馬鹿)
降谷に言ったのか自分に言ったのか、よくわからなかった。
結局どっちが勝っているのか、よくわからない。
それでも続けるのが、このどうしようもないゲームの、醍醐味。
終
08,09,13