<れんれんさ> 「今日は、何してた?」 「れ、れ、れん、しゅうを、」 「そうかそうかー」 適当に思える返事は、実はとっても愛だとか恋だとかいったふわふわしたものを込めている。 今目の前にいる少年が食しているような、あまいショコラのように。 俺の前には対照的に苦いコーヒー。熱くてまだ飲む気がしない。 「おいしい?」 尋ねると、はにかんだ笑顔が頷く。口にくわえられた銀のスプーンが、ヒョコ、とお辞儀した。 「あ、の、秋丸さん」 「うん?」 「はる…」 「なに?」 知っているのに聞くのは卑怯かな? でも、いいね。 それはお互い様さ。 三橋君はちょっと目を泳がせてから、こちらを上目遣いで見上げる。 「はる、な、さん、は…」 「榛名は今日も練習。三橋君と同じだね」 いいひとぶった笑顔でも彼は安心するから一応見せておく。 そうするとやっぱり安心したように、破顔。 彼がうちのエースのことを聞きたがるのは、敵になる可能性があるからだと思っていた。 でも、 赤い顔とか、恥ずかしそうな仕草とか、は。 「ねえ」 好き、なんだろう。 「なんでそんなに、榛名のこと?」 「あ…」 「怒らないし、教えたりしないよ」 またほら、ちょっとわざとらしいくらいに笑ってやって。 教えるわけないよ、だいじょうぶ。 君のことを好きなあいつに、教えるわけないじゃないか! 三橋君は縮こまって眉をハの字にしてあからさまに困ったカオをした。 「あの、ほんとに…」 「言わない」 「……」 銀のスプーンを置いて、目をうろうろ彷徨わせながら。 「榛名サン、は…」 「榛名は?」 「あ、べくん、と、バッテリー、だったカラ…」 「……え?」 俺はまじまじと彼を見つめる。驚いた瞬間に少し眼鏡がズレた。 三橋君はそれは嬉しそうな顔で微笑んで。 「阿部くんのことつくったのは、やっぱり榛名さん、だから」 だから、知りたい、です。 恥ずかしそうに言って、俺から目をそらす。 そらしてくれて本当によかった。俺の顔、かなり間抜けだったろうから。 つまりは榛名のために俺は使われ、その榛名は阿部のために使われている、と。 うわ…可哀想。はるな、ごめん。俺勝手に羨ましがってた。 目の前のコーヒーはふらふらと湯気を上げつづけ、俺と三橋君の間で空に消える。 「それ、で、阿部くんのこと知りたいのは、」 「…ぇ?」 珍しい三橋君からのことば。 思わずかすかな声になってしまった俺の相槌に、にっこり笑って。 (余計なことを言うならばその笑顔が、俺に向かう笑顔より、榛名を思い出す笑顔より、 阿部を語る笑顔よりずっと、キラキラしていた。) 「おれ、投げるのがイチバンだから…」 だから、知りたく、て! そう言って、くすぐったい笑顔を見せてくれたのだった。 ええと、要するに。 俺、榛名、阿部、野球。 あ、いや、野球、阿部、榛名、俺…?? 「…なーんでそんな、連鎖なのかな!」 (だってそれが、 レンレンなのさ!) <れんれんさ>