06:三日月(満たされることなんて決してない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どちらの想いが上か、なんて、どうでもいいと思っていた。けれど、いざそばにいて想い

を通わせるようになると、そうもいかなくなってしまった。

求めて求めて、求め続けていたものは確かに腕の中にある。要はその量と質だ。名だけで

はいけなくなってしまったのだから。こちらが想う通りの想いが返ってきているのか、そ

れとも、こちらの想いばかり肥大していっているのか。「気になる」という次元を遥かに

超えた、「それしか考えられない」という状況。

寝転んで見上げた天井には所々染みがあった。薄暗くてはっきりとはしないが何か別のも

のに結びつけられそうな形を、とりあえず忘れておく。どうせ、最後は彼に戻るのだ。あ

のふわふわの茶色い髪とまるい瞳がこちらを向いて、微笑む。それが頭をよぎるだけだ。

それだけ、という事実は喜ぶべきなのか哀しむべきなのか、正直よくわからない。

ふーっと息を吐く。ゆっくり起き上がる。ベッドのスプリングが軋んだ。胸の軋みに影響

されて…なんてのは、単なる妄想。ざらりとしたシーツの肌触りが嫌悪感すら呼び起こす。

手の中でそれを握り潰した。

外からは何も聞こえない。虫の声でも聞こえれば救いもあるだろうに。欝々とした心底の

わだかまりも忘れていられるかもしれない。虫には悪いが、虫のせいにできるかもしれな

い。だが、その時期には幾分か早い。

顔を上げて、窓を見る。銀のサッシにはまった透明なガラスが、外の暗さを映し出してい

た。

手に力を込めて、ゆっくり立ち上がる。家は畳じきだから、さらっとした畳が裸足に心地

よく馴染んだ。少しだけ嬉しくなる。

スポーツ少年にあるまじき鈍重さで窓に歩み寄ると、固い鍵に手をかけた。鍵もやっぱり

少し軋んだ音を立てて開く。

息を止めて、窓を開けた。

まだ少しだけ涼しい風が部屋に舞い込む。固めていた口と肺を楽にする。入り込んできた

冷たい空気は、全身に溶けるように消えていった。しかしまあ、なにも変わらないものだ。

眼下には道路、向かいには住宅。どれも黒々としていて静かで、時が止まったような印象

を受ける。

窓枠に腰かける。風が黒髪を揺らした。首をひねって見上げたそこは、星の見えない空。

月のある空。半分以下の質量になったように見える月が、白い光を降らせる。

――あれ、でも。

欠けた月の光で星が消えてしまうものだろうか。弱々しく光を放つ黄色のぼんやりした存

在は、庇護を必要としそうなほどに、脆いのに。

数々の星を飲み込んで、抱きとめて。一体の光となる欠けた月。

それでも放つ光に迷いはなく、凛とした姿は美しい。

――ああ、ツナみてえだ…。

シャツの胸の辺りをぎゅっと掴んで、此処にはいない彼を想う。ふぅ、と吐かれた息は、

月の光に溶けて、流れていった。

まだ知ることができない想いは、あの欠けた部分に眠っているのだろう。

 

 

 

 

 

早く、月がまるくなりますように。そう願って、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

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台詞が入ると会話ばっかりになって凹むので(私が)、できるだけ台詞を入れないように入れないようにしたらこんなことになってしましました。反省。

月はいいです。綺麗ってだけじゃないチカラを感じます。好きが高じて空「月」です。

完全な恋愛なんてできるはずがない。そのことにゆっくり気づいてゆく山ツナとかいいなあ。

でも、完全とか満足とかを求め続ける恋愛も素敵だと思うのです。逆に、欠けていることを受け止めてゆける恋愛も。

 

2007.07.05