01:青い炎(この熱は手に負えない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆらり、蜃気楼のように。

「山本…」

「ん?」

二人で歩く、帰り道。ツナが山本の目を覗き込んできた。

小動物のようなまあるい茶色の瞳がひどく愛しい。見ているだけで、温かい気持ちになる。

しかし、ツナの口から出た言葉はかなり意外なものだった。

「なんか山本…最近怖いよ?」

山本は目をしばたたかせた。ツナほどではないけれど、目が丸くなる。

言われた言葉を頭の中で何回か繰り返し、意味を理解したらむしろ混乱した。

「え…と、怖い…?」

こくん、とうなずくツナ。目に恐怖の色がないのが、せめてもの救いなのだろうか。

確かに野球をする時の山本は人格が豹変するし、戦う時のそれも、普段のおおらかにこやか

な山本とは違う。しかし、今更?そんなの随分前からだし、ツナ自身前からツッコんでいた

ではないか。

ツナは心配そうな顔で山本を見上げる。カバンの紐をぎゅ、と握って。

「どうかした?何か問題あるなら、俺、直すから…」

ツナの言葉に、妙な違和感を感じる。なんで、ツナ?

「や…待て待て、ツナ。なんでお前が謝るんだよ?」

なんとかぎこちない笑顔を取り繕いぽんぽんと頭を撫でると、ツナは困惑した表情を山本に

返し。

「だって…山本が怖い顔するの、俺の前でだけ、だもん」

「…えぇ?」

あまりの意外さに山本は変な声を上げた。

よりにもよってツナ?有り得ない話だ。他のヤツならまだしも…そう思いツナを見下ろすと、

彼は眉をハの字に下げる。

「ほら、今も、怖い」

「ええー!?

山本は普段ならツナが上げそうな叫び声を発してのけぞった。足を止めて顔をぺたぺた触り、

一体何がいけないのか必死で考える。しかしさっぱりわからない。

「え…何が、怖いんだ…?」

「目」

同じく足を止めたツナに即答される。ツナは困惑した顔はするものの、決して脅えたり嫌悪感

を抱いたりはしていないらしい。ただ意味がわからない、といった風に山本を見上げ続ける。

「目に…ゆらり、って、なんか」

「なんか…?」

「なんか、見えるの」

女の子のような語尾が舌っ足らずに聞こえ、少しどきっとした。

「だいじょうぶ?山本」

「…」

大丈夫じゃないかもしれない。山本はそう思う。

――なにか、が、俺の中で起きてる。

夕暮れの中で、ツナはこくりと首を傾げる。

不安げな親友の異常な細さだとか。女の子みたいな顔の作りとか。

吸い込まれそうな、瞳とか。

すべてに、目がいく。そんな自分はやっぱり怖い顔をしているのだろうか。

ツナに、何か思っている。それはわかった。しかし、何かはわからない。

自覚のない何かが、心にわだかまる。それは今にも成長して爆発しそうでもあるし、一生静か

に溜まっているようでもある。

一体、なんなん――

「やまもと…?」

頼りなげな声とうるみかけた瞳にびくり、と心臓が震え上がった。

何か、をしたいのだ。ツナに何かをしたい…けれど、何を?

無意識に、シャツからのぞく肌に目がいく。首筋、鎖骨、胸――聖域、という言葉がポカリと

浮かんできて、パチンッと弾け飛んだ。

手を、ツナの肩に置く。いつもスキンシップをとっている時はなんともないのに、今は触れた

そこが異常に熱い。ツナが熱いのか山本の手が熱いのか、よくわからない。もう片方の手も置

く。向かい合うように立って、山本はぼんやり気が付いた。

――あー、そうか。そうなのな。

「ツナ」

「うん」

「ほしい」

「…何、が?」

茶色の瞳と黒の瞳がまっすぐに見つめ合う。

「ツナが」

 

 

ツナの目に映った自分の瞳に、

 

ゆらり、

 

炎が見えた。

 

 

 

 

 

 

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ああ、お題って難しいなあ!(一種の開き直り)

自分の恋心に気づいてない、っていう設定もとても好きですー。自分で書くと痛々しいけど…orz

んで気づいてしまうともう止まらない山本とか大好きです。友人の奇行に(笑)わけわかんなくて混乱しちゃって逃げ出してしまうツナとかもっと好きです。

 

2007.6.19